小説 | ナノ

なんだよなんだよ、「三郎次くん。」そうはにかんで赤い顔を隠すように笑ってたのは、演技だったっていうのか。陰でアイツ、富松とふたりで俺を笑ってたっていうのかよ。舞い上がってた俺がバカみてーじゃん。

「おーい三郎次ー」
「ああ!?」
「ヒッ!」
「左近、気を付けろ。今コイツに話しかけただけで火の粉飛ばしてくるから。ったくめんどくせーなあ。」
「久作、そんなこと言わないであげて。」

こっちに話ふってくるよりはいいけど、隣から聞こえる会話がいちいち腹立つ。というか、周りのもの全てにむしゃくしゃする。
何のせいって全て富松が悪い十割富松が悪い。

「先日、富松先輩と愛しの花子ちゃんのツーショットを目撃した池田三郎次くんは、悲しくて苛立って、こんな風に荒んでしまったのでした。」
「久作!!うるせー!」
「あ、その富松先輩と花子のことで、」
「左近も黙れ!」
「ヒッ!」
「でもほら、花子ちゃんと富松先輩は深い関係とかじゃなくて、たまたまふたりで話してただけなんじゃない?」
「ねえ作兵衛相談があるんだけど…って言う親しげな花子の声は聞こえたらしーぜ、四郎兵衛。」
「あ、はは、そうなんだ。」
「そのことなんだけど僕さ、驚いたんだよ、あの二人、」
「もうお前ら喋るな!」

馬鹿にしやがって。くそ、俺が苛々しているこの瞬間も、花子は俺の気も知らないで、富松と肩を並べてるっていうのかよ。…マジ富松、地獄に落ちろ。

「だ、だから違う、僕さっき聞いたんだ、」
「まあまあ三郎次。あんまり癇癪起こすと惨めだからやめとけよ。」
「そうだ、気分転換にバレーボールしようよ!ね!?」
「ほっとけ!」
「うああ!!!もう!!!話聞けよ!!」

顔を真っ赤にさせた左近が大声を出したから、俺らはぴたりと会話をやめた。なんだよ。さっきからうるせーな左近。大声出して泣き叫びてーのはこっちだよ。

「花子と富松先輩はいとこ同士なんだってよ!」
「は?」
「え?」
「へ?」

何?いとこ?富松と?花子が?ウソだろ、あんなヤツと花子が親戚とかないない。冗談きついわ、ったくしょーもないこと言うなよ左近のやつ…

「それ、冗談なら笑えないぜ左近。」
「それがさ久作、花子本人からさっき聞いたんだよ。いとこなんだって。」

…え、マジ?…ちょっと待て。それが本当だとすると…?

「え?じゃあ何、三郎次の勘違いなの?…あれ、三郎次?」
「光の速さで走り去った。」
「バカだなあいつ…」



*



「花子!」
「あ、三郎次くん。どうしたの?息切らして。」
「いいか、悩みごとがあるなら、今度からは相談は富松じゃなくて俺にしろ。」
「え?」
「なんでも俺を一番に頼れ。」
「え、それ…どういう?」
「お前は俺が守ってやるから。」
「か…勘違いして、いいの?」

みるみる赤くなっていく花子は、悔しいけどかわいい。息を整えながら、ゆっくり、頷いてみせる。

「ああ。」
「う、うわ、嬉し!さ、作兵衛の言う通りだ、」
「…え?」
「あ、えっと私ずっと作兵衛に、相談してたから、…池田くんが好きなんだけどどうしたらいいかって。」

な、なんだって!俺のことで悩んでたのかよ、マジくそかわいいじゃんこいつ…!富松のヤローこんな花子独り占めで美味しいポジション取りやがって…

「最近三郎次くん…なんとなく冷たい気がしたから、相談したの。そしたらね、川西くんに私たちがいとこだって、ばらしてみって。そしたらうまくいくぞって。ホントにうまくいった…」

真っ赤な顔で嬉しそうに、花子が頬を緩ませる。

ああ嬉しい、嬉しいけど…なんか納得、いかねー…アイツぜってー俺のとこ内心で笑ってただろ。想像するだけで腹立つ…
まあいいさ、富松のかわいいかわいいイトコの花子はもう俺のもんだからな。

「今度からは、俺に全部言えよ。」
「うん、ありがとう。やっぱり、三郎次くんはかっこいいな。作兵衛ったらね酷いの、アイツは見かけだけだから本当にやめといた方がいいって何べんも言うの。ほんと、二人とも仲がいいんだね。」

ちょっと待て花子。どこをどう見たら、俺と富松が仲良く見えるんだ。完全なる勘違いだぞそれ。

…あーかわいい彼女にやっかいなコブがついてきたもんだ。
まあでも、富松に睨まれたくらいで花子を手離す気はさらさらないけどな。よしよし今度富松に会ったら、目の前で花子を抱き寄せてニッコリ笑ってやろう。せいぜい悔しがれ。

「そうだ、今度三人でお話しようよ。作兵衛に言っとくからさ!」

意識が飛んでいたせいで、花子の言葉を咀嚼するのに時間がかかった。とても素敵な提案だと言わんばかりに楽しそうにニコニコ笑う花子は、俺が断ることなど全く想定していないに違いない。もちろん、俺はそんな花子にやめてくれとはとても言えず、引きつった笑いを浮かべるのだ。

そして後日俺は、花子を挟んで富松(先輩)と睨み合うことになる。



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