小説 | ナノ

「川西先輩、好きです!」

私がはじめて川西先輩にそう告げたとき、川西先輩は固まって口をぱくぱく動かして、顔をみるみる赤くさせて、典型的な初な男の子の反応を見事に表してくれた。今でもその表情を克明に思い出すことができる。その姿に私は、いっそう川西先輩への想いを強くしたのだ。
それが、今じゃ、


「あの態度ですよ〜?いくらなんでもあの変わりようはヒドいと思いません?好きですって伝えれば、ハイハイって。ひどい時には静かにしろ、ですよ?もう、いくら私が川西先輩にぞっこんだからっていってもですよ!億が一ってことがありますからね?川西先輩は私の一途さに安心しすぎてると思います!」
「満足したか?そしたらもー出てってくれていいぞ。」


池田先輩は書物から目もそらさずそう言った。


「ちょっと、扱いゾンザイすぎません!?乙女の傷心を癒してくれる気はないんですか?」
「お前の心は鉄でできてる。そんくらいじゃ傷つかないよ。」
「あー今また傷入りました。私の心、綿みたいに脆いんです。傷ついたー。」
「確かにお前の心軽そうだもんな。」


さっきからザクザク言葉で切り込んでくる池田先輩は、私に目を合わせてくれる気さえないらしい。大げさにため息をわざとついてみても、効果なし。ひどい。


「そりゃー私、こんなに適当ですけど…ちょっとは、傷ついてますよ!」
「…あのなあ、お前ら別に恋仲でもなんでもないんだろ?」
「私はいつでもウェルカムなんですけどね。いかんせん川西先輩が応じてくれないもので…」
「好きです好きです言って去ってかねーで、恋仲になってくれってお願いしてみろよ。」
「恥ずかしくて付き合ってだなんてそんなこと、言えませんっ」
「今更なにぶってんだ…。お前なら押し倒しそうな勢いじゃねーかよ。」
「ヤダあ!池田先輩ったら、ハレンチなんだから!もー!ふふふ!」
「出てってくれ早く。ってかもう二度と来るな。ったく、なんでわざわざ火薬庫まで来て俺に言うんだよ。」
「川西先輩のオトモダチに恋の悩みの相談をしたかったので。また相談に来ますからポジティブなアドバイスくださいね。」
「話聞いてたか?」
「都合の良い話しか聞かないことにしてます。」

そこまで言うと、とうとう池田先輩はいらだったのか乱暴に読んでいた書物を投げ捨てて、そして外に向かって「左近!聞き耳立ててないで早くコイツ回収してけ!!!」と大きな声で叫びだした。
驚いて扉の先を見てみると、そこに居たのは確かに真っ赤な顔で慌てふためく、川西先輩。

「ばっ、べべべべつに聞き耳なんてっ」
「二人で居るのが心配になるくらいならちゃんとコイツ管理しとけよ!うるさくてかなわない!」
「っか、川西先輩!」

ダッシュで走りよると川西先輩はいっぱいシワをよせて目線をいっぱいにそらしてきた。久しぶりにみたそんな先輩の姿に、私の気持ちはいつも以上に膨らんで膨らんで膨らんで、

「好きです!」
「う、うるさい!」
「好きです好きです川西せんぱい!そうだ私たち、もう契りを結びましょう!」
「おお前は何を言ってるんだ!」
「すみません、わたし…先輩の気持ちに気がつけなくて…」
「か、かんちがい、するな!!別に僕は、お前なんて、」
「余裕のない先輩も、素敵です!」

勢いで抱きついても、今日は振り払われない。やっぱり川西先輩がすきです!

「くっそお前ら早く出てけクソ!!」

あわよくば口吸いを、という私の思惑は池田先輩の暴言によって遮られ。
私と川西先輩は火薬庫をなかよくほうり出されました。
ありがとう池田先輩、私たち幸せになります!



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