小説 | ナノ

久しぶりに久作とふたりきりになれた。最近は池田とか池田とか池田とかたまに川西とか池田とかに邪魔ばかりされて、久作とふたりきりの放課後なんてほとんど無かったから。スキップしちゃうくらい嬉しいんだ。池田は口を開けば久作久作久作、歩けば金魚のフンのように久作について回っている。いったい池田は久作の何なんだと向き合って指差して問いかけたいほどだ。学校帰りのコンビニくらいひとりで行けっての。私の久作を取るな。

そんなわけで折角のふたりの時間、行きたいところは沢山あった。まず、新しくできた駅の向かいの雑貨屋さん。それからいつものスタバ。あと久作の部屋。新しく買ったって言ってたスピーカーで音楽を聞きながら久作の肩にもたれて…

「手止まってるぞ。」

ぼうっと飛んでいた意識は、わたしの大好きな低めの声によって戻された。
久作の視線は相変わらず参考書に注がれたままだ。私も自分の開かれただけの教科書を目で追ってみた。相変わらず、不可解な単語が並んでいる。

「もうイヤ、わかんない。ねえねえ気分転換に遊びに行かない?」
「明日はテスト本番。遊びに行く時間はなし。以上。」
「ええ〜…だってわからなすぎて死んじゃうよ。」
「それアホの発言だから使わないほうがいいぞ。だいたいどうしてわからなくて死ぬんだよ。」
「でたでた、理屈屋。ああやだ頭がいいからってさあ。」
「真面目にやらないなら帰れ。お前が教えてって言うから一緒にやってるんだろ。」
「どこがわからないのかわからないんだもん。」
「うわ…その発言、アホ丸出し。」

そう言って久作は軽蔑の表情を私に向けた。
うわああああんばか!きゅーさくのばあああーか!やっと一緒になれたと思ったらひとのとこを二回もアホ呼ばわり!

「もういい!帰る!」
「なんだよ、怒るなよ。」
「もう遅い!怒った!だいたいテスト前まで私をほっとく久作が悪いんだばーか!池田といちゃいちゃしてれば!そんでクソ真面目に勉強して優等生して、アホ丸出しの私を鼻で笑ってればいーさ!」
「なんで俺が池田といちゃいちゃするんだよ。気持ち悪い。」

そう言って久作はため息をつきながら席を立って広げたルーズリーフをファイルにまとめだした。

「なにしてんの…」
「気分転換するんだろ。」
「え、いいの?明日テストだよ…?」
「今更何言ってんだ。気分転換終わったらまたやるからいーよ。ほら、どこに行きたいんだ。」
「〜!!」

あきれたように笑って、大事なとこで私の我侭聞いてくれる。久作ってずるい!
かっこいいんだから、ずるい!頭がよくて、かっこよくて。

ああもうだいすき!

「久作、すきー!世界で一番あいしてるわ!」
「声がでかい!こんなとこでくっつくなアホ!!」




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