小説 | ナノ

合同実習が、あるらしい。
町に出て一日過ごすだけなのだが、恋仲を演じろというのだから困ったもんだ。
誰を誘えっていうんだ。

「左近はいいよなぁ、花岡がいて。」

こういうとき、仲の良いくのたまがいるということは強いと思う。
誘いやすいし、実習もやりやすい。ま、花岡だったら俺もペアになりたいと思うが、花岡は左近と組むのだろう。

あー、と無意味に声をあげて机に突っ伏す。
左近の笑い声が聞こえる。

「三郎次こういうの特に苦手そうだしな〜。ま、お前と組みたいやつは多いんだから、適当に声かけて一日話してりゃいんだ。なんなら花岡と組んだらどうだ?」

左近の言葉に顔を上げる。

「だって左近と組むんだろ?」
「別にこんな時にまで僕は花子といたくもないよ。三郎次仲良くなりたいんだろ?」
「まあ、そうだけど…」

まだ友達になれてないから誘いづらいんだよなぁ、と独り言にように呟く。
なりたいと誘うはやっぱり別だ。


「おーい、左近大変だ。お前の大事な安全パイがとられたぞ。」

久作がスタスタとやってきてそう言った。

「は?どうゆうこと?」
「花岡さん、もう実習の相手決めてたって話。」
「…誰?」
「富松先輩」
「…は?なんで?」
「それがさ、俺さっきこの間実習で一緒になったくのたまに会ったんだけど、聞いて驚いたんだ。普通実習の相手なんて適当に誘うもんだろ?なんでも富松先輩、くのたま長屋まで行って花岡さん指名してきたらしいぜ。」


目の前に、
左近もいよいよ子離れしないとな、なんて笑って言う久作の顔と
眉間に深い深いシワをよせて久作を睨む左近の顔。

ひどく沈んだ気分の俺は今、どんな顔をしているのだろうか。働かない頭でそんなことを考える。





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