小説 | ナノ

「ねぇ、明日の実習誰となりたい?」
「やっぱり、先輩がいいかなぁ〜」
「次屋先輩と神崎先輩とは、ご遠慮願いたいわね…」
「浦風先輩とがいいなぁ、しっかり下調べしてくれそう。」
「富松先輩も、リードしてくれそうよねぇ。」
「二年だったら…池田かな、見栄えするし。」


くのたま同士できゃっきゃっ話す話題は、明日の実習のことで持ちきりである。
2、3年生の忍たまとくのたまの合同実習であり、町に出て恋仲を装い一日過ごすというもの。
先ほどいきなり発表されたこの実習に、私は心が浮き立たない。

(池田くんは、誰を誘うのかな…)

忍たまがくのたまを誘う、というのも実習に含まれているのだ。
池田くんの話題を耳にするだけで心が痛むのに。
池田くんが女の子を誘って、町で歩く姿なんて絶対に見たくない。どうか会いませんように。


「花子は…まぁ川西かな。」
「ああ、そうだね。花子は川西だね。」
「何かに巻き込まれないようにね。」
「みんな、同情するような目で私を見ないでよ。」
「いいんだけどね〜。こっちに不運うつされても困るし。」

こんなことを言われている左近に心の中で同情した。



「花子!」

いきなり名前を叫ばれて振り向くと、同室の子が息を切らしてこっちを見ていた。

「なに〜?」
「なに〜じゃないわよ!来て!今富松先輩が長屋の前であんたを呼んでんの!」
「へ?」


富松先輩?
そうとうなアホ面で返事を返すと、周りのみんながきゃあ、と沸き立った。


「ちょっと、花子やるじゃない!」
「どういうことなのよ!花子!」

興奮したようにみんなが私を囲む。え、ええ

「明日の実習、あんたを誘いに来たのよ!」


まさか、と思いながら富松先輩のところへ行くと、
こちらに気が付いた先輩がはにかんだように笑って手をあげた。


「よっ」
「富松先輩、わざわざこんなところまで来て…みんなに何かされませんでした?」
「会うくのたまにジロジロ不審な目で見られたな。」
「でしょうね。」
「はは、で話なんだが、明日の実習一緒に組まねェか?」


さらり、と言った。言ったよ。この人。


「本当ですか?」
「ここまで来て、嘘言う程暇じゃなねえよ。もう川西と決めたか?」
「いえ。さっき内容を聞いたので。まだ何も。」
「そっか、そりゃ良かった。じゃあ、明日よろしくな。」
「あ、っはい。迷惑かけますが、頑張ります。」

それだけ言って、富松先輩は言ってしまった。


まさか富松先輩が誘ってくれるとは思わなかった。
左近が誘ってくれるだろうと考えてたのに。こりゃ気ぬけないなぁ。


とりあえず、部屋に帰ってくのたまの子達からの質問攻めをかわさないと。





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