小説 | ナノ

俺ら二年は三年生とそんなに仲の良い方ではない。

別に何か恨みを持っているとか、嫌いだとか、そういうわけではないのだが。
なんとなく苦手意識があるのだ。それは年が近いからこそ接し方がわからない、ということでもあり、その上向こうは先輩であるから、こちらがぎくしゃくしてしまうのだと思う。
実際のところは、よくわからないが苦手、というのが一番正しい。


なぜこんなことを思ったか、
それは、今花岡が三年生の富松作兵衛先輩と談笑していることが原因である。




今日は、食堂に卵焼きが出る日だ。これはおばちゃんからリサーチ済み。
花岡は食べ物が好きだ。これは左近からリサーチ済み。
なかでも卵焼きが大好きだ。これも左近からリサーチ済み。

今日は花岡と顔見知りになる一歩として卵焼きを渡すつもりだった。

花岡が食堂に現れる時間を見計らい、左近と合流させて、俺も合流。できれば一緒に食べる。


左近が立てた計画は順調だった。俺が合流して、何気なく会話に混ざる。
「他のくのたま」と食べることは残念だが予想の範囲内だ。
とりあえず、今日は卵焼きをあげて、花岡に喜んでもらおう。

そう思って好きな魚のあるA定食ではなくB定食を選んだのに、この状況はなんだ。


左近も驚いてるが俺は驚いてるどころじゃない。ちょっと頭が回転していない。
左近によれば、花岡は忍たまでは一年は組と左近しか仲が良くないし富松先輩なんて接点もないはず。
なのになんでそんなに仲が良いんだ?

混乱する俺に更に追い打ちをかけるように富松先輩が花岡に卵焼きを渡す。
別に俺と花岡は何の関係でもないのに、なんだか花岡をとられたような気分だった。



「…お前、富松先輩と仲良かったっけ?」

左近が花岡に聞く。

「んー。この間、用具委員をお手伝いした時にね、仲良くなったの。これはお手伝いのお礼だよ。」


そっか、そうなのか。ちょっとほっとした。
って、いつから俺はこんなに女々しくなったんだ。…花岡に会ってからか。
て!でも別に花岡は悪くないもんな。俺が好きだから、悪いんだ。
て!俺は花岡が好きなのか!?

顔には出さなくても、頭の混乱はひどくなる一方だ。


「じゃあね、左近。池田くんも!」

混乱が一気に吹っ飛ぶ。
聞き流しそうになった。
俺が目を見開いてその言葉を認識してる最中に、花岡は後ろを向いて行ってしまった。

「…俺のこと認識してくれたよ。左近。」
ぽつりと言葉が無意識に出た。
「…そんなん当たり前だろ。」
「そっか。」

左近が何か複雑そうにごにょごにょ呟いていたが、耳に入ってはこなかった。

結局卵焼きは渡せず左近に気を使われて慰められたが、花岡の言葉のおかげで、沈んだ心が軽くなった気がした。





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