小説 | ナノ

たまには町に行こう、と言い出したのは久作だったか。

今は男4人でうどん屋に来て、ずるずるとうどんをすすっている、たまにはこうやって外で食べるのも悪くない。

「この後どうする〜?」
「僕はもう買いたいもの買ったから、いいよ。」
「俺も」

僕も、と同調しかけ、頭に花子の顔が浮かんだ。

「あー…ちょっと、帰りにだんご屋によっていいか?」
「いいよ。何、左近お土産買うの?」
「ああ。」
「わかった、花岡さんだ。」

にへっと、笑いながら四郎兵衛が笑う。


「そー。あいつお土産お土産いつも煩いから。」
「へぇえ。でも良い子だよね、花岡さん。」
「…からあげのことか?」
「それもそうだけど。前にへろへろな僕を長屋に連れてってくれたことがあるんだ。
あ、ろじくん、あのときだよ。ろじくんが金吾を保健室に連れて行った時。あったじゃん。」
「あ、ぁああ。」

いきなり話を振られて三郎次がうろたえたように返事を返す。

「あの時、ろじくんが行った後に僕無理して行こうとしたんだけどね。
花岡さんが走って来て池田くんに怒られちゃうよって言われて。」

にこにこしながら話す四郎兵衛の話を真剣に聞く三郎次を、ちらりと見る。

「僕がどうしても行くって言ったら、じゃあ肩貸すって。女の子にそんなことさせられないって言ったけど花岡さん聞かなくてさ。時友くんがどうしてもって言うんだから私のどうしてもも聞いてよって。」


そうそう。あいつは人に気を使わないように見せかけて、気を使って使って生きてる癖に、そういうとこだけ強情なんだ。
ほんとバカだよなぁ。疲れる生き方しちゃって。もっと楽に生きていいのに。
…て、俺はあいつの親か。


「すげーいい人だな。左近、あんまり花岡さんいじめるなよ。」

久作の言葉に、だってあいつバカなんだもん、と返した。




「じゃあちょっと買ってくる。」
「おー。」
「…俺も行く。」

だんご屋に入ろうとしたら三郎次がそう言ってついてきた。

こいつはどう思ってるんだろうな。花子のことを。
花子は三郎次が大好きだし、三郎次もたぶん花子に悪い印象は持っていない、はずだ。
三郎次はそういう感情が読み取りづらいんだよな。
…花子が僕にオープン過ぎるのか。

とりあえず、僕には僕の好きな二人が仲良くなってくれたら、という自分勝手な希望があるのだ。


「花岡は、甘いものが好きなんだ?」

ふいに三郎次が聞いてくる。

「大好きなんだよ。糖分足りないっていつも言ってる。」

太るぞっていうと、むくれるけど。

「あとは、学食の卵焼きが好きだな、あいつ。前に僕の卵焼きを横取りしようとしてきた。ま、食べものはみんな大好きだよ。」

食べることに人生の半分は賭けてるな、と言うのはやめておいた。あんまり三郎次に言うと花子に悪い。

僕ってなんだかんだ、花子を大事に思っているんだよなぁ――


「左近。」
「んー?」
「俺も花岡と仲良くなりたい。」


だんご屋に渡す小銭を落としそうになった。三郎次がそんなことを言うなんて、
驚きが僕の顔に出ていたらしい。三郎次が少しうろたえだした。

「いや、なんかな。花岡って、俺にないものばっか持ってる気がするんだ。もっと踏み込んで話をしてみたいなって。」

おい、花子。これはもしかしてもしかすると、脈はなくはないぞ。

「仲良くなってやってよ。ちょっとメンドクサイやつだけど。」
いいやつだからさ、と言ったのは僕の精一杯の花子の褒め言葉だ。

ああ、と言った三郎次の顔がほんのり赤くなっていた気がしたのが、僕の気のせいではないといいと思った。





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