小説 | ナノ

もうだめ。精神的に、つらい。つらい。辛すぎて、激ヤセも夢じゃない。ほど。辛い。

「何言ってるの、こんな腹して。」
「ギャー!!!!!!タカ丸さん何触ってんですか!!!女子の体に触れないでください!!」
「だいじょうぶだよ、僕のなかでキミは女の子にカウントされてないよ!」
「そういう問題じゃないです!それにさりげなく傷つくこと言わないでくださいよ!」

なんなの、この人。言動がますますエスカレートしてる気がする。実際私結構まいってるんですタカ丸さん。わかってくださいよ。確かに体重は多分変わってませんけど…

それにしてもこれだけまいってるんだから体重くらい減ってもいいと思う。みじめだ。

「いやあ、花子ちゃんってさ、思ったよりは弄り甲斐あるんだよね。」
「それ褒めてます?」
「まさか。」
「ですよねー」

あまりにも毎度タカ丸さんが強気で私に構うものだから、私も負けじと返答するようになってしまった。その結果がこの状況だ。友人にも「最近タカ丸さんと仲が良い」という認識がついてしまっている気がする…確かに親密になってるような気がするけど、気がするだけであって、もはやこれは不可抗力であって、つまり全てはこの人が悪いんだな。うん。

「それにしてもタカ丸さんも私のところに頻繁に来るんだから暇ですよね。」
「暇だなんて心外だなあ。花子ちゃんと一緒にしてもらっちゃ困るよ。今は大事な僕のストレス発散時間。」
「私で鬱憤晴らし。」
「そういうこと。どうせ花子ちゃんも暇でしょ。逢引する相手もいないし。」
「あーひどい。よくそんなひどいこと言えますね。」
「表向きとギャップがあっていいでしょ?」
「表向きとのギャップがありすぎて私、本気で泣きました。」
「ホントに。見たかったなあ。」
「どうせ大笑いするでしょうタカ丸さん。」
「うーん、失笑かな。」
「タチ悪…」

ほんと、予想の斜め上を行く人だ。このままこの人に付き合ってたら、もたない。ぜえったいもたない。決意をさらに固めて、「あの、」と切り出した。タカ丸さんは、いつもの優し"気"な表情を私に向ける。

「私、タカ丸さんから逃げるために委員会に入ることにしました。ですので別のストレス発散相手を見つけてください。」
「へえ、どこに入るの?」
「生物委員会です。」
「またどうしてそんなとこに。動物好きでもなさそうなのにね。」
「なんせ、緊急事態ですから。」

確かに、動物が好きでたまらないというわけではない。特別な理由はなく、委員会の中でも私ができそうなものに絞った結果だ。とにかく逃げられるなら何でもよかった、と言えば委員長代理の竹谷先輩に申し訳ないが、これがいちばんの理由だ。

「そういうことなのでこれで失礼します。」
「はーい、またね〜」

「また」なんてあってたまるか。私はタカ丸さんに返事をせずに、竹谷先輩を探しに出かけた。しかし割とあっさり帰してくれたな。その辺りの自由は尊重してくれるということだろうか。そのぐらい尊重してくれなきゃ困るけど。ていうか寧ろタカ丸さんに私の自由を奪われていること自体おかしいのだ。

ぐるぐる学園を探し回ったが竹谷先輩は全く見つからなかった。動物の世話をしているのかと思い、飼育小屋にも来てみたのはいいが…ここにいるのは蛇とじゃれる三年生の忍たまだけだ。この人に思い切って聞いてみようかな。…それにしても蛇に、大量の虫に…これみんな世話するのか。目前の光景を見て少し怖じ気づいた。

「あ、花岡いたいた。おーい。」

じっと飼育小屋を見ていたら声がした。竹谷先輩だ!そう思って振り向いた先には予想通り竹谷先輩、ともうひとり。確か…五年生の久々知先輩?

「もしかして待ってたか?悪い。」
「いえ、平気です。」
「委員会に来てくれるって話だったろ。あれなんだけどな。どうやらこういつんとこ人が足りてないみたいでさ。そっちに移動してもらえねーかなと思ってるんだ。」

突然の申し出に私は頭をフル回転させる。久々知先輩、どこの委員会だっけ。まずい、計画が狂った。変なところに飛ばされたんじゃ困る。

「そんな心配そうな顔すんなよ。兵助のとこは会計とか体育みたいに過酷じゃないしさ。悪い話じゃないぜ。それに花岡、楽な委員会がいいんだろ?それならピッタリだ。」
「エッ、竹谷先輩だれから、それ、」
「タカ丸さんだけど。」

頭ににやり、含みをもたせた笑顔のタカ丸さんが浮かぶ。あ、あの人…!先輩になんでそんなことを…!

「それにほら、タカ丸さんとも仲いいみたいだし。花岡にはぴったりだと思うな、なあ兵助。」
「ああ。実はもう土井先生には伝えてあるんだ。タカ丸さんが絶対承諾してくれるって言っていたし。…花岡?どうした?」

血の気が引いていく。

「久々知先輩…の、委員会って、」
「あ、まだ言ってなかったな、火薬委員会だ。」
「おおおおおことわりしま「花子ちゃーん。」

必死な私の拒否文句は遮られ、同時に肩に重み。しかもかなり重い。重い!視界に入る明るい髪の毛!ぎゃああああ!!!

「出たあああタカ丸さん!」
「そんなに嬉しがらなくていいよ?」
「だだ誰が…!痛い痛い痛い!すみません嬉しいです…」
「もう委員会に入りたいんだったら僕に言ってくれれば良かったのに。」
「委員会くらい私の自由を尊重していただけるとばかり思っていました…」
「良かったね!僕と一緒に作業ができるね!」
「久々知せんぱい、助けてください…」

必死の懇願を冗談と受け取ったのか、久々知先輩と竹谷先輩は微笑ましいものを見る目つきで「仲が良くて羨ましいなあ。」「いちゃつくのも大概にしてくださいね。」などと言い残し去っていった。いやあああ待って!しかも鳥肌が立つその勘違いを!やめてくださいいい!!

「花子ちゃん、ツメが甘いよ〜」
「わたしの、じゆう…いずこへ…」




←TOP

×