小説 | ナノ

「あ、花子ちゃんだあ〜」


私の肩が大げさにびくつく。タカ丸さんの予感。
昨日あんなことがあったから、私は常に細心の注意を払って学園を歩いた。面倒ごとに巻き込まれぬよう、タカ丸さんと接触しなければいい。そう思っていたのに夕方になって油断した。前からゆっくり、鮮やかな髪を揺らして紫色の忍たまが歩いてくる。逃げられないと悟って、覚悟を決めた。

「あ、タカ丸さん、ぐぐぐうぜんですね!」
「ほんとね!朝から花子ちゃんが避けるからさ、偶然ここで会えてよかったよ。」

ヒエエエばれてる…冷や汗たらたら足元ぶるぶる。私の動物的本能が今すぐ逃げろって叫んでる…。

「なんですかなんですか何かようですか。」
「え?用がなかったらまずいの?」
「い、いえ…」
「用はあるよお。鬱憤晴らしにきたんだ〜。ほら僕人気者だから、ちょっと苛々することも多いわけ。」
「…失礼しまっすウえっ」
「ねえなんで逃げるの?昨日言ったでしょ?付き合ってよ。きみの前でくらい、愚痴こぼさせてよ。」
「私じゃないひとにお願いします!」
「いないから、仕方なくキミにしたんじゃないか。」

仕方なくって、こっちこそ無理矢理タカ丸さんの相談相手もとい鬱憤晴らしにされたんですけど!あああなんで知り合ったばかりの私がそんなタカ丸さんの重要ポジションについているんだろう。

「あのー、そういう役割は、もっとこう、同性の親友とか、昔からの友達とか、そういう人たちが適任だと私は思うのですが、どうでしょう。ほら、私は先日初めて会った得体の知れないやつですし。」
「だから、キミが偶然あの場にいたんだから仕方なくって言ってるでしょ。頭悪いの?」

これが先日、私に優しく話しかけて焔硝蔵に導いてくれたタカ丸さんと同一人物だなんて、信じない。信じたくない。人間不信になる。ありえない。

「僕だって好きでキミにしたわけじゃないんだから。もっと適任がいるだろうとは思ったけど、まあ仕方ないよね。」

タカ丸さんが無遠慮に私の全身をじろじろ見て、最後にひどくつまらなそうに私の顔を見た。ずいぶんひどいことを言われているのに、もう衝撃的すぎて頭が追いつかない。

「まーいいよそんなことは。とりあえず聞いてよ花子ちゃん。みーんな、こっちが良い顔してれば調子乗ってあれこれ頼んでくるんだから困るよ。僕のことを便利屋と勘違いしているのかね。有難うとか、思ってるんならお金でも置いていくくらいの誠意見せてくれてもいいのにね。いっつも髪の毛触るたびにね、引っ張ってやりたい衝動に駆られるんだ。こんな風に。」
「いーっだだだあ!ちょ、タカ丸さんいだい!」
「んでもう衝動的にバッサリ切ってやろうかなって思ったりね。こんな風に。」
「ギャー!!!やめてやめて!」
「なに喚いてんのうるさいよ。ほんとに切るわけないじゃない。」

いや、今のは本気だった。私こそタカ丸さんの便利屋じゃないか。もう便利屋というよりもサンドバッグに近いけど。……もうイヤこの人コワイ。




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