小説 | ナノ

三分という時間が短いと思ったことはない。
たった三分間、されど三分間。その時間はひとつの目的のために与えられた余分な時間、つまり俺は待つのが嫌いだ。
行儀よく俺の前に並ぶのは箸、カップ麺、コショウ。ストップウォッチ。それを覗き込む、花子。

「腹減った…」
「あと二分二十五秒。」
「なげえ…」
「二分二十秒。」

おいおいあと百四十秒もあるのか、一秒でさえなげえと思ってんのに。その百四十倍とは…餓死寸前の俺にとっちゃ恐ろしく途方もない。
風呂に入って10数えて出るときのあのもどかしさとか、羊を数え始めたときのあのどうしようもない退屈さ。大嫌いだ。時間というのは数え始めてしまうと思ったよりも長くて、退屈だ。

「どーん。」
「…っあ!お前なに勝手にフタ開けてっ…!」
「どーん!」
「っああああ!お前、なあっ!まだラーメンできてもないのにコショウ入れんなっ!しかも山盛り…」
「どばーっ」
「ネギ入れんな!…あ、いやネギはいいか別に。サンキュ。でもフタ開けたら熱気が逃げるだろ!」
「ごま油入れていい?」
「入れていいって、もう入れてるじゃねーか!」
「わたしカップ麺はごま油入ってないと食べる気しなくて。」
「いや、やらねーよ。」
「あっそ。じゃあネギ一個だって食べないでね。」
「きったねえ…」

花子は腹立だしくもとても嬉しそうにわらう。そんなに俺を構うのが面白いか…ったくしょうがねー奴。そう内心で毒づきながらも暖かな温もりが落ちてくるのを、しっかり俺は感じている。この温もりに包まれたくて、彼女のこの嬉しそうな顔が見たくて、俺はこいつに構われてやる。そしてあたたかい場所で時間を忘れる。

電子音が三分間の終わりを告げた。恐ろしく長いはずだった三分間はあっけなく終わった。拍子抜けして一瞬固まったら、横からすっと伸びた腕が香ばしい匂いをさらって行った。ふわりごまが香った。


「いっちばーん!」
「っあー!お前はもう昼食っただろーがっ!」
「ネギ美味しいよさぶろー!」


俺はまだ彼女との時間を数えない。そうして温かさはいつまでも続いていく。

しばしお待ちを

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