小説 | ナノ

「よっ花岡!」
「あ、富松先輩、おはようございます!」
「なんか、太ったか?」
「…っな!」
「っく、嘘だよ。」
「それセクハラですからね!」



「おっ!くのたまの保健委員の花岡!」
「神崎先輩こんにちは。会って早々に訂正させていただきますが私は保健委員ではありません。」
「ああそうだったな!川西の彼女だったか!じゃあな!」
「もっと違います!ってああ、先輩、そっち学園の外です!」



「あ、花岡ちゃんだ。元気?」
「はい、元気ですよ。三反田先輩、泥だらけだけど、だいじょうぶですか?…その、訳はなにも、聞きませんけど…」
「や、やだなあ、そんな気使ってくれなくて、だいじょうぶだよ。僕、はは、もう逃れられない不運な運命にあるからさ。」
「せ、先輩!なんだかすみません…」






「…なーんか。」

せっかく三郎次くんといられる日なのに、なんだかんだ色々な人に遭遇して一緒の時間を邪魔されて。今日は疲れる日だなあ、と思っていたら、横から三郎次くんの低めの声が聞こえてきた。

「花子は、三年と仲良いな。」
「え、?そ、そうかな。今日はたまたま沢山話しかけられているだけな気がするけど。それに、一部のひとしか知らないよ。」
「俺はセンパイ達と用がなきゃ話さないからさ、なんか。」
「なんか?」
「なんか……妬く。」
「っへ、」


や、やくって、
ぼっと顔が熱くなった。私、三郎次くんに妬いてもらってるんだ。どうしよう、熱い。やっと、三郎次くんの隣に慣れてきたと思ったけど、やっぱりまだダメかも。体は熱いし、なんだか落ち着かない。


「あ、えっと私、でもちゃんと、三郎次くんだけ、だからっ!三郎次くんしか、見てないよ!」


とにかく違うって伝えなきゃ、とだけ思って言葉にした。でもその後に目を開いて三郎次くんが顔を赤く染めるのを見て。自分が口にした言葉の恥ずかしさにやっと気がついた。うっわ、

「あっ、あああ、は恥ずかし…!三郎次くんいまの私の言葉、記憶から消して!」
「ちょ、落ち着け、」

だめだ、私三郎次くんの傍だと、些細なことでおかしくなる。何やってるんだろう。もう。普通で、いたいのに、いたいのに。


「その…嬉しいよ。」


間抜けな顔でへ、と目線を合わせると、すぐに三郎次くんに逸らされた。三郎次くんの耳元は、勘違いじゃなく赤い。
三郎次くんが、私の大好きな人が、嬉しいって。私の気持ちを嬉しいって言った。また、世界が、煌めきだして真っ白になる。
どうして、こんなに幸せなんだろう。大好きなひとが、私の気持ちを嬉しいって言ってくれるって、なんて、なんて凄いんだろう。


「さ、さぶ」
「ちょっと黙って、」

三郎次くんのごつごつした指が一本だけ、彼の口に当てられた。近くで、一年生の忍たまが遊んでいる声が聞こえる。胸が、飛び出そうなほど、音を立てる。三郎次くんが、段々近づく。三郎次くんが、私の、視界一杯に、あ、


「ひゅー。こんな所で大胆。」



その声が聞こえた瞬間、それはそれは凄い勢いで、私たちは離れた。心臓がさっきとは違う音で、鳴っている。声のした頭上を見上げれば、屋根の上に次屋先輩が寝そべっていた。

「次屋…先輩…」
「池田か。作兵衛に言っとくわ。あいつ調子乗って学園の庭でやらしいことしてたってな。」
「なっ…!べ、別に俺は…!」
「してないって?」
「っぐ。なんでもいいです。早くどっか行ってください!」
「ハイハイ。お邪魔しました。」
「本当にです。」

もう私はぽかんと口を開けるばかり。何が起こったの、…というかさっきの見られてわああああ!
気まずい雰囲気で残された私たちはなんともいえない笑顔でぎこちなく微笑みあった。

「なんか、その、ごめん。」

髪の毛をいじくりながら言葉を選んでいる三郎次くんがちょっとだけ、これを言ったら不本意な顔をされそうだけど、可愛くみえる。

「っふ。」
「なんだよ。」
「さっきのやりとりで、変な緊張とれたよ。」
「俺は大分寿命が縮んだ。」
「…やらしいことしようとするから。」
「花子まで、言うなよ。ああだめだ俺はやっぱり、三年とは仲良くなれなそうだ。」

幸せを噛みしめてけらけら笑うと、拗ねたように三郎次くんがしかめっ面をした。



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