小説 | ナノ

「兵助!これ、兵助のために私が心を込めて作ったの!」

愛しの彼女からそう言われてもらったものは、塩豆腐だった。塩豆腐とは、豆腐の塩漬けなるものらしい。俺のために作ってくれたというだけで嬉しい。物凄く、嬉しくて仕方ない。ありがたく塩豆腐なるものを頂戴して食べた。これはこれで、クリーミーでとても美味しかった。嬉しさから美味しい美味しいと連発すると、気をよくした俺の豆腐と同等、いや豆腐よりも愛しい彼女は毎日毎日俺のために塩豆腐を届けてくれるようになった。こんなに彼氏思いの彼女が他にいるだろうか。あまりの健気さと可愛さに卒倒しそうになる、と言っても全く過言ではない。


「あーもう腹一杯。お前はのろけを聞かせたくて俺らを呼び出したのか。」
「俺、惨めになってきた…」
「ち、違う!」
「三郎とハチの言うことも最もだよ。それで、兵助。まさか本当にそれだけじゃないんでしょ?」

勘右衛門の言葉に真剣に頷いて俺は話を続ける。

「実はな、もちろん、俺は塩豆腐は凄く美味しいと思ったし、物凄く嬉しいんだよ。…でも、やっぱり普通の豆腐が好きなんだ。でもそんなこと、あんな可愛い顔を見たらとても言えなくて。でも俺の一番好きな豆腐が塩豆腐だと思われていることがなんだかあいつを裏切っているみたいで、悩んでいるんだよ…なあ、どうするべきかな。俺、本気で悩んでいるんだ。」

「…」
「…」
「…」
「…ややっぱり、本人にちゃんと言うべき、じゃないかな?」
「やっぱり!そうだよな?言うしかないよな。確かにそうだ。ああ、早く言おう。ありがとう雷蔵!」







「のろけの方がまだ疲れなかったな。ああ、兵助はもう戻ってこれない領域まで行ってしまったのか。」
「三郎、そんなの最初からじゃない。」
「雷蔵…そんなさらっと。」
「本当のことでしょう?」
「雷蔵が黒い…」
「ブラック雷蔵…」
「さすが若い女性に大ヒットするだけのことはあるね。」

12/03/15~12/05/23(久々知)

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