小説 | ナノ

考える。牧之介について。私と牧之介の関係について。

それは、ダメなやつ。ただ目先の利益に飛び付いては人に迷惑をかけたがる。それは、昔から。


「お姉さんは、いい人っすよ。多分みんなが思ってる。あんなに面倒くさい牧之介と俺らの間に入って対処してくれる。」

きっと私は誰よりも、牧之介の怠惰さ、傲慢さをわかっている。
そのいらない自負は私に余計なものしか与えない。


「でも時々、なんですかね。ずるいって思っちゃったりするんす。すみません。俺のただの戯れ言だと思ってください。」

それは、腐れ縁。
私は牧之介を引っ張る。時には叱りつける。まるでそれが私の使命なのだというよつに。だって私の隣にはずっと牧之介がいたのだから。
当たり前だと、思い込んでいた。


「すみません、俺もわからないけど。俺は、俺たちと牧之介のどっちも取ろうとするあなたが怖い。」

それは、寂しがりや。
強がるくせに誰かにかまってほしい。そんな我侭な彼に私は会いに行って、世話を焼く。だってそれは私の日常だから。
―そんな理由を誇らしくぶら下げて。

日常と常識がぶつかる今、子供時代からすれば色々なものを知ってしまった私は、頭では常識を歩くべきだとわかっている。いい加減、なにも変わらない幼馴染みを切り捨ててわたしを構成していくべきなのだ。


「俺たちは牧之介が嫌いじゃありません。でも、鬱陶しく思うこともありますし、面倒くさいです。正直。だから、あなたもそういう態度で牧之介に接してくれればいいのに。」

それは、ただの幼馴染み。
手を離せばすぐに切れる距離。ただの過去になれる関係。
なのに私は、残念なことに牧之介を遠ざけたいと今この状況でさえ思えない。


「俺らにも、あいつにもいい顔なんて、都合いいですよ。」

それは、私にとって、彼の姉妹を望む関係。
欲しかったのは関係の切断が許されない、肉親関係。
もしもそうであったなら、私はなんの躊躇いもなく牧之介に接し、今の状況を安心して続けていられるのに。


「すみません、俺。卑屈っすね。」
「…いや、正論だよ。」
「多分羨ましいんです。あなたみたいな姉ちゃんが、俺は欲しかった。」

牧之介が先ほど壊していった学園の備品、壁。それらを少しずつ固めながらぽつりぽつり言葉はつながれていく。きり丸くんとわたしの距離は近いけど遠い。
こんな小さな子にこんな寂しい感情を抱かせて。牧之介は本当にどうしようもない奴だ。そして私はそれ以上に救いようが無い。

牧之介はまた戸部先生に決闘を申し出て騒ぎを起こして、更には学園を破壊して逃げていった。私が謝りに回れば皆が苦笑いで私を庇う。
いつも牧之介の愚痴ばかり言うくせに、牧之介が問題を起こせば謝る私は確かによくわからない存在だ。妙な使命感に燃えて、ただ牧之介の肉親気取りをしているだけだ。

「それは…情ですか。」
「きっとね。」
「そうですか。」

情、そういわれると私の牧之介への気持ちは酷く薄っぺらいものなのだな、と感じた。
情であることに違いはない。でも、私はきっと、牧之介と家族でいたい。それは愛情に近いものだ。

「情は情でもね、深い情よ。」
「え?」
「簡単に言うとね、そうだなあ、ペットかな。」

そこできり丸くんが噴出してけらけら笑い出した。
ああ、それならピッタリです。納得しました。白い歯が光る。

ぜんぶ伝わってはいないだろうけど、まあ間違ってはいないだろう。私と牧之介の関係、
それは、深い情。
あなたと家族に近い関係でいたい。
何度幻滅しても、きっと私は牧之介を見捨てない。

それが今の、ずるい私の答えです。



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