小説 | ナノ

「ねえーまだ終わらないの?」
「んー」
「サーティーワンしまっちゃうよ。」
「もうちっと。」
「三之助さっきからそればっかじゃん。もー。」
「まー待てって。」
「あと5秒で席立たなかったら私にレギュラーダブル奢りね。いーち、」
「ムリ。あと10分にして。」
「なんなの!ウソでも急ぐフリしてよ!待たせる気満々じゃんか!」

三之助は私の言葉など気にせずにまだ携帯のゲームを続けている。ピコピコ、ピロリーン。間抜けな軽快音が、寂しく教室に響き渡る。

「あーあ。携帯ゲームとか何が楽しいのかね。」
「あ、お前にプチ情報。作兵衛もこのゲーム大好きだから。」
「いやー、私もさ暇つぶしに携帯ゲーム?ってやってみたいなーって思ってたんだよね。」
「お前に作兵衛の名前は効果てきめんだよな。単純で助かる。」
「で、富松くんはこのゲームが好きなんだ。ね、結構ハマってる感じだった?その答えによっては私もダウンロードする必要があるから。」
「え?あー、わかんね。」
「なにそれ。」
「だって嘘だから。」
「エ?何が?」
「お、クリア。」
「ちょっと、三之助、何が嘘?まさか富松くんのハナシ嘘?ねえ。」
「っし、新しいエンディング。」
「おいこら、電源ボタン切るぞ。」
「切ったら俺泣いちゃうからやめろよ。とりあえずちょっと静かにして。音聞こえないから。」
「切る。」
「、待て、いいのか。大好きな富松くんの良ーい情報持ってるぜ俺。」
「へへー!三之助さまぜひ教えてくださいお願いします。」
「…プライド持てよお前。」
「持つから教えてくださいお願いします。」
「作兵衛好きすぎて気持ち悪いなお前相変わらず。」
「なんとでも言って。富松くん大好き。好きを通り越してもう戻れない。とりあえず情報ください。」
「よし、しょうがないな。教えてやろう。」
「わあい三之助くんありがとう!」
「じゃー教室を出てから話すわ。廊下で待ってて。」
「はやくね!よーしテンション上がってきたー」

るんるん、富松くんの情報もらえるなら三之助を待つなんてヨユーのよっちゃんイカだぜ!死語なんて軽く言えちゃうくらい今の私の気分はアゲアゲ絶好調で超ベリーにグッドだ。たんっとスキップを踏んで、私は勢いよく廊下に飛び出した。


「…おわっ、」
「わっ」

そのまま私は何か障害物にぶつかった。
もう誰だい!最高な気分の私にぶつかるなんてけしからんやっちゃ…って、
あああああああああああああああああ!

「とととおっ富松くん!」
「わ、わりい、ちょっとその、ぼうっとしてて、」

ナニコレ?奇跡?
ああ、ありがとう!ありがとうぼうっとしてくれて富松くん!私は今日偶然にも富松くんに触れた。それも偶然に。もう運命ってことでいいんじゃないかな!よし決まり運命!まっ!私は富松くんの前ではただの女の子設定だから間違っても口には出さないけど!別に富松くんなんて、好きじゃないよおー><…なんってオーラ出すのに必死だからね!

「私こそ、ごめんなさい。富松くんは何か忘れ物?」
「ん、いや。三之助に呼ばれて、な。ここで待ってたんだ。」
「へえ、三之助に…」

ちょっと待て。
私は一瞬にして固まった。

「とまつくんはずっとここに居た、の。」
「ああ、ずっとって訳じゃねえけど。」
「私たちの会話とか聞こえたりしない、よね?」

落ち着くのよ、花子。私はさっき三之助の奴に何を言った?暴言の数々にはこの際目を瞑るとしても。富松くん大好きだとかなんだとか色々まずいことを言ってしまったのではないかな?私の記憶によると。
引きつっているだろう顔で富松くんに恐る恐る尋ねてみれば、沈黙で返された。

「…わりい、その、聞こえた。」

あーあーなんという、ことでしょうか。コチラ、花岡花子。ただの女の子設定早々に崩壊のもよう。

「ご、ごめんなさあああい!」

叫んで走り去ろうとしたが、私の手はがっちり掴まれてしまってそれ以上進めない。

「ちょ、まって、」

ヒャアア富松くん追い打ちはかけないで!私!手つかまれただけで後で何度も思い出してはにやけちゃうタイプの女の子なんです!スミマセン!好きでスミマセン!

「また、ない!」
「なんでだよ!っなあ、花岡は俺のこと、好きって言っただろ?」

ヒョエエ私の口からさらに言わせようとするなんて、ド級のSだね富松くん!でも好きだ!
もう今すぐ!この場から!消えたい!

「嬉しい。俺、…花岡がずっと好きだったから。ああ、やられた。」

はた、と動きを止めた。
私はおそらくドジョウやウツボみたいに間抜けな顔で口を開けていたに違いない。富松くんはこころなしか頬を染めていて…え?え?
そしてそのとき図ったように三之助が後ろのドアから廊下に出てきた。ニヤついた顔で私に向かって口パクで…こんなときに何?ま、ぬ、け、面…?腹立つ…

「さ、さ三之助、ちょっとっ」
「作兵衛、そいつとサティーワン行ってやって。レギュラーダブル食いたいらしいから。」

よよ余計なことをおおお!!恥ずかしさが嬉しさとあいまって頭が昇華しそうだ。
ひらひら手を振る後ろ姿の三之助が遠ざかる。
もしかして、私たち三之助に、仕組まれたの?

「花岡、俺とでも、いいか。」
「へ、あ、おねがいします…」

むしろ富松くんとがいいのです。


萎れたへなちょこ声についでのつもりで、あの、好きです、と小さく付け足すと、富松くんは私の大好きな笑顔で「ああ。さっき聞いた。」と言うのだった。

めぐりあわせ

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