小説 | ナノ

お昼を食べようと食堂へ向かう途中、左近に会った。

「あ、左近ちゃん。」
「なんだ花子か。」
「なんだって…もう。左近ちゃんはツンデレなんだから〜」
「…」
「左近ご飯ひとり?」
「ああ。ま誰かに会うだろ。」
「…ごめんね、左近ちゃんと一緒に食べたいのはやまやまなんだけれど、今日くのたまの子と食べる約束だから…」
「別にそんなつもりはこれっぽっちもないから安心しろ。」
「かわいくないなあ。左近は。」

フン、と鼻を鳴らす左近と話しながら並んで歩いていると、現れた食堂の扉。そのとき反対側から左近と同じ色の忍たまが歩いてくるのが見えた。
途端に手足がこわばる。それはまさしく、池田くんじゃないですか。

「よー左近。」
「三郎次。これから昼か?」
「ああ。お前もだろ。一緒に食べよう、…てもう約束済み?」

池田くんに見とれていたら池田くんが私の方を向いた。
心臓の音が、うるさい。

「いや、コイツそこで会っただけ。別のやつと食うらしいからほっといていいよ。」
「ああ、そうか。」

ちょ、左近扱いひどい。
ま、いいか。左近のおかげでこんなに近くで池田くんを拝めたし、何より初めて目があった。一緒に食べれるチャンスだったかもしれないけど、たぶん私の心臓が爆発するから、今日はこれで十分。左近さまさまです。
池田くん、左近、わたしの順で食堂に入る。今日はA定食にしようか、B定食にしようか。…悩むなぁ。
でもAにはお魚さんがいるし、Bには卵焼きさんがいる。どちらも私を呼んでるよ…うう、両方入ってたら迷わずそっちなのに…どうしよう。
あ、池田くんはBか…じゃあ私もそうしようかな。

「花岡、」

後ろから声をかけられ、驚いて振り向く。

「富松先輩。」
「よっ」

そこにいたのは、この間の用具委員のお手伝いで仲良くなった富松先輩だった。
緑色の人たちがたくさん後ろにいるから、三年生みんなでお昼を食べに来たのだろう。

「AとBで迷ってるんだろ?卵焼きやるから、Aにしときな。」
「え、本当ですか!?」

富松先輩!なんて良い人…!!!あの時は冗談だったのに本当に卵焼きを私にくれるなんて。
嬉しくなって、私はおばちゃんに元気よく「A定食ください!」と言った。


「ほらよ。」

先輩が、私に卵焼きを差し出す。つやつやでふわふわのたまごが私の手元にやってきた。

「ありがとうございます。私、卵焼きだいっすきなんです。」
「いや、こちらこそこの間は助かった。ありがとな。良かったらまた用具委員に来いよ。」

そう言って富松先輩はさわやかな笑顔で三年生の輪に戻っていった。
嬉しいなあ。単純だと思うけれど顔が笑顔になる。

「…お前、富松先輩と仲良かったっけ?」

左近がふいに聞いてきた。

「んー。この間、用具委員をお手伝いした時にね、仲良くなったの。これはお手伝いのお礼だよ。」
「ふぅん…」
「嬉しいなぁ卵焼き。」
「…お前って、損な奴だよ。」
「へ?」

なんのこと、と聞き返そうと思ったが、「花子、こっちー!」という友人の声に意識が持っていかれた。

「じゃあね、左近、い、池田くんも!」

一生懸命さり気なさを装ってそう言って、友人の方へ向かう。
い、いいい言っちゃった。言ったよ。池田くんに。初、会話。一方的だけれど。
池田くんもきょとんとした顔でこっちを見たから、きっと私は認識されたはず。
変じゃなかったかな?べ、別に自然だよ、ね?友達の友達で、同学年だもの。そのくらい。

「花子、何通り過ぎてんの。席こっちだよ。」
「…う、うひゃぁごめん!」

どきどきする。テンションがおかしい。この分だと、せっかくもらった卵焼きの味もわからない気がする。
これだけでこんなに熱くなる私は、池田くんと会話もまともにできないんじゃないだろうか。

「何慌ててんの…顔真っ赤だし。」
「いや、ぜんぜん、ぜんぜんですぜんぜん。」
「いやいやぜんぜんわからんよ。」





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