小説 | ナノ

「さんのすけーねえ、構ってよ」

「んー、後でな。」

そう言うと目の前の女は「彼女が構ってって言ってるのに!」と怒りだした。あー駄目だよお前。そういうこと言われちゃうと俺、拒否反応示しちゃうから。
今度こそ今度こそって毎回最初は思うんだけどなあ。途中でめんどくさくなっちまう。だから女たらしだとか不本意な異名がついちまうんだ。俺だって別に好きで女を変えているわけじゃない。…まあ、楽しいっちゃ楽しいんだけどな。
「それがタラシってゆーんだよアホ!」なんて作兵衛は怒るけど。仕方ないだろ。生物学的に遺伝子にそうインプットされてるんだから。気の遠くなるほどの年月の積み重ねで培われた繁殖に必要な能力の遺伝子にこんな一個人が逆らったって無駄だよ。っていうと作兵衛は「もっともらしく言うな!」なんてまた怒る。同じ男なら俺の気持ち理解してくれよ。


「ねえ、」


そう言って俺の腕にしがみついてきた女の子は、たぶんとてもかわいいのだけど。
今の俺にはうっとおしい以外の感情が持てない。今回も、駄目だったか。


―ブブブ


そのときタイミングよくバイブ音がした。
助かったと言わんばかりに俺はそちらに意識を移し、不満そうに顔をゆがめる女を剥がしてメールを確認する。さて、どの子かな。
しかしそこに表示されたメール送信者は俺が見たこともないに等しい人物だった。


花岡花子


花岡?
…って、同じクラスの?
派手目じゃないけどかわいいよな。作兵衛とかが好きそうなタイプ。
俺のことは嫌いそうだけど。

なんでコイツが俺に…って、あ、
もしかしてさっき俺が送ったメール…あー、やっぱり宛先間違えてる。間違えて花岡にメール送っちまったのか。ま、いいや。謝っとくか。ええーとなんだって?



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title: Re:


肉じゃが食ってろ


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ぶは、と噴出したら何そんなに面白かったの、と隣にいた女が携帯を覗き込んできた。

「覗くなって。」
「なに、他の女の子とメール?ちょっと彼女がいるのに何でそういうことするの!」
「それは俺の勝手。」
「三之助ひどいよ…もう私出てくから!」

足音が遠ざかっていく。涙声で言われて罪悪感が沸かないわけじゃない。でもそれだって計算なんだろ。俺に引き止めて欲しくてわざと言ってるんだろ。
ちらり玄関を見れば靴を履く女が見える。なあパンプスなんて、そんな時間かけなくても履けるはずじゃないか。

もうそこで興味を失ってしまった俺は、また携帯のメール画面に意識を戻した。親指を機械の上で滑らせる。


肉じゃが旨いよな。


花岡がどんな意図でこんなことを送ってきたかはよくわからない。でも俺のことは嫌いなんだろう。このメールも本当は返信なんて期待されてはいないのはずだ。
でもそれに俺はあえて返信する。面白そうだし。打ち込んだ文に、悪戯心からもうひとつ文章をつけたした。


花岡が作ってくれた肉じゃがなら俺喜んで食べるけど。


送信っと。
さあて、どう来るかな。

気がつけば玄関にいた女はいなくなっていた。なんか清々した。
…って思っちゃうんだから参るな。我ながら後腐れなさ過ぎる。俺って繁殖するためだけに生まれてきたみたいだ。

「…くだらねえ。」

ま人生は楽しんだモン勝ちだ。俺はなんやかんや楽しんでるんだからいっか。
ブブブ、また音がした。花岡だ。毎度いいタイミングでメールくれるよな。ありがてー。
メールを開けばまた簡素な文章。

ナポリタン食ってろ

それだけ書かれたメールに不覚にも俺はまた噴出してしまった。

悪夢のナポリタン




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