小説 | ナノ

「もしも大金持ちになったらどうする?」

僕が聞くと、三郎次ははっきりとした縦の線を二本、眉間に刻んだ。
そのわかりやすい反応に思わず笑みを漏らしてしまった。予想通りだ。

「…四郎兵衛もそんな陳腐な質問すんだな。」
「んー、この間委員会でそんな話題になったから。」
「へえ。」

なんてね。嘘だけど。ごめんね三郎次。

「なったときに考える。どーせなりっこねーし。」

その返答で、僕に後悔の影がずるりと忍び寄りだした。ああ、もう今更だよ。

「四郎兵衛?固まってるけど大丈夫か?」
「え?僕固まってた?」


ううん、大丈夫じゃない。



三郎次、もしも、もしもさ。僕が花子ちゃんを貰っちゃったらどうする?

そんなことあるわけないって言う?


「そうだ、この間花子が四郎兵衛に会いたい会いたいって騒いでたぞ。ウゼーって四郎兵衛からも言ってやれよ。」
「別に、うざくないよ。僕は…花子ちゃん好きだよ。」
「相変わらずヤサシーよな四郎兵衛は。」

いつも見る三郎次のげんなり顔だ。でも知ってるよ。三郎次が花子ちゃんをどれだけ大事に想っているかなんてさ。見てればわかるよ。だってきみたちは本当に羨ましいくらい楽しそうにはしゃぐんだから。

三郎次、今の僕の顔もちゃんといつもどおりかな。そうだといいんだけど。


もしも
もしも、か。
はは、

もしもが作り出す幻想は所詮幻で
ただの空想の中の夢物語
だから、だめかな。想像のなかくらい許してくれないかな。
なんて、結局許さないのは僕自身なんだけど。



もしも僕が、
もしもの幻想に浸ることを止められたなら―
とそう考えてすぐに僕は酷い自己嫌悪に襲われて

ずるりずるり底なしの沼に飲み込まれていく


(あのね、僕はね、彼女もすきだし君も好きなんだよ)

もしも僕が

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