それからのことを話すとだ。
俺の努力の甲斐あって、ようやく手のかかる後輩達はお互いの想いに気がついたようだ。ほぼ同時の告白の後は、お互いのことを知っている川西でさえ状況についていけてねえのかぽかんとしていた。
「やーっと言ったなおめえら。」
やれやれといった風に肩を上げて見せると、真っ赤な池田が睨んできた。
「どーいうこと、ですか。」
「どーいうことも何もないだろ。そーいうことだよ。」
「は?富松、花岡と恋仲なんだろ?」
「てめ、先輩だぞこっちは。俺がおめーらのために色々と手を回してやったってになんて口の聞き方しやがる。だいたい、俺がいつ花岡と恋仲だって言った?おめーが勝手に勘違いしてただけだろ?」
「この、」
「三郎次!富松先輩のお陰で伝えられたんだぞ。落ち着け。」
「それにしても傑作だったぜ。焦って取り乱すおめえ。」
「左近!放せ!!!一発殴る!」
「あ?おめー俺に勝てると思ってんのか?」
ったく、コイツはしょーがねー奴だな。
どう罵倒しようか思案していると突然川西が池田の頭を叩いた。え?
「…って!左近、何すんだよ。」
「三郎次が怒るところじゃない。」
ツンとした川西の態度に狼狽え、何も言えなくなった池田は突然大人しくなってしまって…むしろ気持ち悪い。余計なことすんなよ川西。
「あ、の…すみません。私、全然、何がなんだかわかりません。」
花岡は理解の範囲を超えているようで、顔を真っ赤にしてへなへなとこちらに助けを求めてきた。
まあ、勘違いしてたみてーだし、そうなるか。
「詳しくはそこにいる赤い顔の池田から聞け。」
それだけ言い残し、俺はじゃ、とさっさと退散する。
振り返るなんて無粋なことはしない。俺はたった今舞台から下がった人間だ。
さあ、これでめでたしめでたし、
物語の主人公達は幸せな終わりを迎えます
ってか?
…あーあ、結局何やってんだろうな俺は。
「富松先輩、」
じゃり、後ろで砂がこすれる音がして
振り向けば先ほどあちらで固まっていた川西がいた。
「あそこで僕だけ置いていくなんてナシでしょう。勘弁してくださいよ。」
「…わりいな。」
小走りで寄ってきた川西は俺のすこし手前で足を止めて俯いた。
「どうした。」
「…あの、ありがとうございました。」
「あ?」
「三郎次と、花子のことです。」
「…なんだ、やっぱおめえはあいつらの保護者だな。」
茶化してみても、今回は何も言い返してこなかった。ただ仏頂面で黙りこむだけだ。
しっかし川西。
わからねえか?こういうときに同情される方が惨めなんだぜ?
がさり、今度は上から音がした。
…ったくどいつもこいつも
俺を独りにはしてくれないらしい。
「うまくいったのね?」
「…ああ。」
その返事を待っていたかのようにすばやく宮前が俺の横に舞い降りた。
「なんとかな。おめえも色々と根回ししたんだろ?」
「少しだけね。でも安心したわ。なんとかうまくいって。」
もともと単純に感情を表に出してくる奴じゃないが、口元をすこしだけ緩ませた宮前は二人の結末を純粋に嬉しがっているようだ。前髪を片手で軽く掻きあげて、今度は真顔でこちらを向いてきた。
「それで、あなたは大丈夫なのかしら?」
揺るがない眼差しとそのあまりにもストレートな質問に、ぐっと押し黙ってしまう。
…そうだ、こいつはこういうやつなんだ。
「どうってこと、ねえさ。」
「強がらなくてもいいわよ。恋情捨てるのも簡単なことじゃないし。」
「ほんっと、嫌な女だな。おめえは。」
「あらありがとう。」
「大体おめえこそ池田おっかけ回してただろうが。そっちこそ大丈夫なのかよ。」
「私とあなたが同じに見えたの?」
「ちげえのか?」
「…ほんっと、馬鹿よね。」
「はあ!?」
「あーあ、さっさと私も"どうってないこと"にしたいわよ。鈍感男なんてポイって捨てて。」
「何ワケのわからねーこと言ってやがる。」
宮前は、もういいわよと吐いて捨てるように言った後にため息をついた。…なんだか納得いかねえ。
「なあ、俺にできる相談だったらいつでも乗るぞ?」
そう言ってやれば宮前は顔をしかめてこっちを睨むし。川西はなんか急いでどっか行っちまうし!なんだっていうんだよ!
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