小説 | ナノ

「左近冷房いれていい?暑い。」
「ああ。」
「左近、眉間にしわよってるよ。」
「いつもだろ。」
「左近、あめ食べる?」
「…いらない。」
「じゃあガム食べる?」
「…るさいな、運転に集中できないだろっ」
「なにさ〜カッカしないでよ。だから私ペーパードライバーなんだから送ってくれなくていいって言ったのに。」
「…事故りたくなかったら黙って乗ってろよ。」
「ハイハーイ。」
「…」
「…」
「…なあ。」
「なによ。」
「…ガムくれないか。」
「結局欲しいんじゃんか。はいドーゾ。おいちいですよ〜」
「ば、バカ!信号待ちでよこせ!口元に手を持ってくるなよ!」
「あーん。」
「…!」
「うん、よろしい。」
「むぐっ、これ以上は何も、するなよ!僕に構うな!」
「わかってるよ。私も事故して遅れたくないしー…って!!わっ!!!?」
「っわ、わるい。」
「びっくりしたあ、いきなり急ブレーキ?どうしたの?」
「…横断歩道に、ばーさんが見えたから。」
「なるほど、ね。ペーパーなのに止まってあげるなんて偉いじゃん。」
「ふん。」
「…あれ?」
「え?」
「おばあさん…渡らないね。」
「…」
「…むしろ、ただ横断歩道の前にいただけじゃない?…ぷっ!」
「…!」
「いやっ、でも左近の優しさ…っふ、わたし凄く感じたな〜!」
「笑うなー!!」
「左近前ちゃんと見ないとっ!ふふ!」
「もうここで降りろ!」
「ごめん〜もう何も言わないから空港までお願いします左近さん。」
「はあ…お前ってほんっと…」
「なーに。」
「…気をつけて行けよ。」
「へ?うん。」
「お前アホっぽいから騙されそうだし。」
「アホっぽいって…」
「メンドクサイことに巻き込まれるなよな!」
「ただの海外旅行でしょ、大丈夫だよ。」
「…どうだか。」
「ふふふ。」
「なんだよ、気持ち悪い。」
「なんでもー!あ、もう着くね。その端に停めてもらってい?」
「ん。」
「わーありがと!助かりました!」
「ああ。」
「じゃあ…いってきます。」

扉を開けたまま、左近の目を見ながら言った。そのままじっと待っていると、左近は怪訝そうな顔で口を開いて、私の期待を理解したのかすぐに口を閉じた。
その口はもごもごと動いている。
ねえはやくはやく。

「…いってらっしゃい。」


照れて言う左近はとってもとっても可愛くてかっこいい。もちろん、無事で帰ってきますよ。あなたが待ってるから。

いってきます

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