小説 | ナノ

左近ちゃん、私どうしたら可愛い女の子になれるかしら。


僕は花子先輩の問いに対して、はあ、と答えた。
脈絡もなにもなくとんちんかんな話を始めるのは、もはや花子先輩の癖なのかもしれない。そう僕が思うことにしたのは最近だ。いちいち突っかかるのも面倒くさくなってしまった。

「今日ね、友達と話をしていたのだけど、その子のしぐさがとっても可愛くて。男の子がついクラッときちゃうような振る舞いだったの。女の子っぽくて良いなあと思ってね。」

先輩は伸ばした足を浮かせて両足を小刻みに動かした。僕はそんな先輩を見下ろしたまま口を開く。

「それでどうしたら男に好かれるかわいい女の子になれるか、なんて下らないこと言い出したわけですか。」
「下らないって酷いわね。くの一としてもその方が得じゃない。」

それに私、女の子らしい可愛い女の子にあこがれているの。


そうこぼす先輩がどこまで本気なのかはわからなくて、適当に流してみれば。先輩はひどいわ、と拗ねてみせた。
呆れからため息が漏れる。

「僕は女の子じゃありませんから。僕に聞くこと自体間違っていると思いませんか。」
「何でもいいからアドバイスが欲しいのよ。」
「それじゃあ来世でなれるようにお願いしたらどうですか。」
「まー相変わらず口の減らない。」

薄桃色の小さな唇をぐっと結んで、先輩は、相変わらず足を動かしながら僕を見上げていた。そっと、意識的に視線を外した。

「僕に期待したって無駄ですよ。僕は、充分可愛いですよ、とあなたに言ってあげられるほど優しくはありませんから。」


きっぱり言い放つと、先輩は黙った。
変わった空気の存在を無視して、僕は話を続ける。



「…可愛い女の子になりたいって、言いましたね。可愛い女の子だったら、いま僕の目の前でぽろぽろと涙を零して、走り去るんじゃないですか。誰かに追いかけてもらうのを待つまで。」
「泣いてなんか。」

その声が、予想外に力強さを含んでいたから、驚いた僕は思わず花子先輩を見てしまった。

「泣いてなんかやらないわ、逃げもしない。絶対。」

そういう先輩の顔は、でももう色々なものをせき止めすぎて限界だというように無理が漏れだしていて。僕は自分が言い過ぎたことに気が付いた。
今にも涙をこぼしそうな目でじっと僕を睨んだまま、先輩は動かない。頑固なひとだ。そして、ばかなひとだと思った。
何をそんなにがむしゃらに女を求めるのだろう。求める可愛さこそ、無意味の象徴であって、ただ男を煽るだけの産物でしかないというのに。

本当に、可愛いひとだ、
諦めて僕はまたため息をついた。

可愛いの正義

←TOP

×