小説 | ナノ

「…で、結局おめえはなんだ。のろけにきたのか。」
「えっ!?そ、そんなつもりじゃ…」
「のろけてるつもりねえって?さっきから浦風くん浦風くんうるせーほど言ってるくせになに言ってやがる!ったくお前の頭のなかには藤内しかいねーのか。」

作兵衛くんがはあ、とため息をついた。
確かに浦風くんのことしか私言ってないかもしれない。

「ご、ごめんね作兵衛くん。」
「謝るこたーねえけど。仲が良いのはいいことだし。で、最近じゃあその愛しの浦風くんとお庭でイチャイチャ楽しくやってるわけだな。」
「い、いいいイチャイチャなんかしてません!」
「おめえ何顔真っ赤にしてんだよ。まあ草影でコッソリってのもいいよな。」
「ふ不埒だよ!私と浦風くんはそんなんじゃないんだから!」
「もう口吸いしてんだからきゃんきゃん言うこたーねえだろ。」
「なっ!くく口吸いなんてしてません!あの時だけだもの!」
「え!おめーらあれから何にもしてねえのか?」
「…」
「嘘だろ…」
「作兵衛くんの変態!もういい!じゃあね!」

恥ずかしさを隠すように顔を背けて駆け出す。作兵衛くんの、ばか。ばかばかばか。私と浦風くんのことなんだから、別になんだっていいじゃない。ばか。口吸い、なんて、


思い出すのは過去の記憶。まだお互いが勘違いしていて。浦風くんが、私にむりやり口付けて、
そこでぶんぶんと首をふった。辛くて悲しかった出来事は、今となっては恥ずかしい思い出で。思い出すだけで胸がきゅ、と締まってぐるぐる暴れる。

浦風くんの熱っぽい目がずっとまぶたの裏に焼きついたまま。

「…からかっただけだよ。悪かったって。」

作兵衛くんが私に追いついて私の肩を叩いたらしい。
はっとして、慌てて振り向いてこくん、と頷いてだけみせた。

「ま、ゆっくりが純なおめえには合ってるかもな。」

にやつく作兵衛くんに、よくわからない罪悪感が押し寄せる。ちがう、私はそんなに純粋ないい子じゃない。
作兵衛くんにはあんなこと言ったけど。
あのときのことを何度も何度も思い出しては胸焦がれて、胸に温かさと熱を滲ませてるなんて。私、何かを、期待しているんだ。

いやだ。
私こそ、いちばん不埒だ。




*




「花子さん。」
「っは、い!」
「どうしたの?なんだかぼうっとしてない?」
「え、そ、そうかな。」
「…僕と目を合わせてくれないし。」
「や、あの、」


恥ずかしい、私ったら、まだ作兵衛くんと話したことを気にしてる。
浦風くんが困ったような顔で、いいけどね、と言った。浦風くん、ちがうよ。私、恥ずかしくて浦風くんを見れないの。変な妄想ばかり頭の中でちらついちゃうの。


(へん、たい。)


言葉にしてみるとそれはとても恥ずかしいことで。

泣きそうになってしまったのを悟られないよう、また私は浦風くんから目を逸らしてしまった。


「ねえ、こっち向いて。」


耳をくすぐる甘い言葉に誘われて、こわごわ視線を戻せば。浦風くんはなんともいえない表情で私を見ていた。ああもっと、

触れてほしいよ、近づいてほしいよ、抱きしめてほしいよ、なんて
いえないよ。だって浦風くんに嫌われない純なわたしでいたいもの。




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