小説 | ナノ

お昼の時間ギリギリに食堂に駆け込み、ランチをなんとかゲットできた。
ふー危ない。危うくランチ抜きになるところだった。
もう食堂にはまばらに人がいるだけだ。私はとりあえず近くの席に座る。

「すみません、隣いいですか?」

座る席の隣の人に声をかけた。そこにいた萌黄色の頭巾の忍たまは、私の声に反応して動き、こちらを見た。

「どうぞ。」

必然的に目が合う。そこに居たのは、見覚えが有りすぎる人物だった。

「「あ、」」

思わず飛び出た声が重なる。
そのことがなんだか気まずくて、私はすぐに目を逸らしどうも、と吃りながら座った。その忍たま―富松作兵衛先輩もお、おおなんて声をあげたから気まずいのだろう。

私と先輩は、お互いを知っているけど話したことはない。私はとにかく早くランチを食べてしまおうと手を合わせて箸を動かし始めた。


「池田の彼女、だよな。」

隣からぼそぼそと声が聞こえた。

「あ、はい。そうです。そういう先輩は、富松先輩ですよね。」
「ああ。はじめまして、か?」
「一応、そう、ですかね?」
「大丈夫か、俺の隣に座って。」
「あー。」
「池田が見たらキレるぞ。」
「別に悪いことしていないですからいいんじゃないですか。知られたらメンドクサイですけど。」
「俺も面倒いんだよ。アイツにこの状況見られたら何言ってくるか。ただでさえ会うたびによくわからねえけど睨んでくんのに。」
「御迷惑お掛けしてすみません。」
「いや、おめえが謝るなって。」

富松先輩は苦笑いしながら魚の骨をはがしている。

「せんぱい、お魚、すごく綺麗に食べますね。」
「え?あ、ああ。ちっせー時からうるさく言われていたからかな。くせなんだよ。」
「すごくいいと思います。三郎次は綺麗に食べようなんて微塵も考えずに食べますから。今度しかってあげてください。」
「おめえな、めんどくせーことさせるなって。睨まれるって分かるだろ。」
「富松先輩って、意外と話しやすいですね。」
「おい、いきなり話飛ばすな。」
「だって、三郎次が富松先輩のことを酷い悪人みたいに言っていたもので。」
「はあ?アイツ…」
「人を見下し後輩を顎で使うとか。」
「マジあいつ今度一回シめる…」
「ダメですって。富松先輩と話したのバレちゃいます。」
「もうバレたっていいだろ。おめーの彼女取ってやったって言ったらあいつ慌てるだろうなあ。」
「富松先輩優しいですし男前ですしそれ、アリですね。」
「おめ…な、何言ってんだよ!じょじょ冗談だ!」
「知ってますよ。私も冗談です。」
「な、ややややっこしいこと言うな!」
「顔赤いですよ。」
「余計にややっこしいこと言うな!!!」
「すみません。からかったりするつもりじゃなかったんです。むしろいつも三郎次がすみませんと謝り倒しておかずの小鉢を差し上げるくらいのうもりだったんですよ最初は。」
「なんか疲れた…」
「でも、先輩が優しくて男前っていうのはホントですからね。素直にそう思います。三郎次の行動とかちゃんと表面では流してくれてますし。」
「…ま、俺が一応先輩だしな。仕方ねえ。」
「感謝してます。」
「オカンみてーだな。おめえ。お疲れさん。」
「先輩も。」

そこで私はこらえきれなくなって、ついに吹き出した。と同時に富松先輩も吹き出して笑い出す。

「ふっ」
「あー思わず笑っちまった…」
「富松先輩、またこうやってお話しましょうよ。三郎次について語る会。」
「おめ、それは浮気じゃねーのか。」
「三郎次の辞書と私の辞書は違うもので。」
「奇遇だな。俺の辞書もだ。」
「気あいますね。」
「だな。」

揺れすぎて痛むお腹を抑えていたらドタドタと足音が聞こえた。

「「あ、」」

これまた富松先輩と合わせて声を上げた瞬間に、緑色の髪を振り乱した私たちの間の中心人物が顔を出す。

「おい!お前、富松に近づくなって言ったろ!浮気か!?」
「おめえ、先輩を呼び捨てにすんじゃねーよ!」
「ああ!?人の女に手出しといてその言い方はねーだろ富松!!」
「あーメンドクサイ…」

三郎次はこうなると本当めんどくさいんだから。ま、そんな三郎次に付き合ってる私も私かなあ。

今にも噴火しそうな富松先輩に向かって私は即座にごめんなさいポーズをとる。富松先輩はちらっとそんな私を見て、大きくため息をついた。



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