小説 | ナノ

「じっとしていてください。すぐ終わります。」
「すみません。」

ふわふわの茶色い髪の毛を揺らしながら彼は真剣にわたしの腕に包帯を巻く。

「あなたはお人よしですね。見ず知らずのわたしに手当てしてくれるなんて。」
「はは、ちょっと呆れているでしょう?」
「いえ、ただ、珍しい方だと思って。」


「僕は保健委員なんですよ。」
「はあ、」
「保健委員だから、手当てするんです。」

困っている人を放っておけないんです、なんて。
それだけ正直に言ったらうさんくさい偽善者みたいでしょう。

なんでもない調子の声は、なんとなく悲しくその場に響いた。

「僕は保健委員会に属しています。そして、困っている人をほうっておけないんですよ。」

そこで彼は顔を上げて、できました、と笑った。

「素敵な委員なんですね。」
「はい。そうなんです。」

では、と頭を下げて彼は去っていく。
もう会うこともないだろう彼が、笑える世であるといいのに。かりそめの感情に少しの間だけ浸った。

11/11/23~11/12/11(猪名寺)

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