小説 | ナノ

"わたしの読みかけの本のしおりが何者かに抜き取られてたしにたい。これは誰かの陰謀だ"

"そっか^^"

"冗談じゃなく激おこでショックなんだけどどこまで読んだか思い出せないしなんなの夢前カス"

"機嫌わるいからって当たらないでよ〜さんちゃんわるくないもん^^"

"なぐさめて…"

"よーしよし^^"


煽っているみたいなさんちゃんからの顔文字に少し苛立ちをおぼえつつ、スマートフォンをクッションに投げだした。

「うあー…」

わがままなのも無理言ってるのだって百も二百も承知。違うんじゃないけど、そうじゃないの。ばかにされてるみたいで、あしらわれてるみたいでモヤモヤする。うまく言えないけど…ただただ今はまっすぐ甘やかされたいんだよ。

「うー」

無意味な声ばかり口から出てくる。なんだかなあって自分で思うけど。理由もなく寂しいよ、さんちゃん。声が、言葉が、温もりが…足りない、のかな。ねえさんちゃん。どうでもいいこと教えてよ。くっだらないことばっかり教えて。肝心なことなんていらないから。

"声が 聞きたい"

しばらく止めていたメッセージにそう返信した。
わかりやすい便利な言葉なのに、ストレートな言葉の使い所って未だによくわからないな。余計なことばかり思い浮かべてしまって、本音を隠したくなるからかな?でも、とにかく気持ちを伝えたい、今こそが使いどきなはず。そう信じて進まないと、たぶんいつまで経っても使えない。これが言い訳でも自分を納得させる言葉でもなんでもいい。とにかくわたしはさんちゃんの声を聞きたい。
期待通りに、着信のランプが光った。


「…もしもしさんちゃん?」
「もしもしプンプン丸?」
「なにそれ。」
「怒ってるんでしょ?」
「おこってないけど。」
「うそつきー」
「え?あ、さっきの話?」
「はーあ」
「もしかしてあきれてる?」
「ううんべつに。」
「あっそう。」
「ねえ、」
「なに。」
「…本、結局どこまで読んだかわかったの?」
「ううん。もうどうでもよくなった。」
「うわもうどうでも良くなってるし。僕怒られ損だーショックー」
「思ってもないこと言わないでくださーい。さんちゃんだってそんなことどうでもいいくせに。」
「まあね。」
「ほら。」
「でも実際僕、傷ついたな。突然夢前とか名字呼びされて深く傷ついたなー」
「すみませんでした〜」
「だめ、言葉が軽い。」
「さんちゃんこそ。」
「僕はいいの。軽いのと天使のさんちゃんスマイルがアイディンティティだから。」


ばかだなあ、さんちゃんは。


無意識にぽろっと口に出た言葉に対して、反論されるかと思ったけど、さんちゃんはしてこなかった。穏やかに微笑む気配がした。たぶん今、声の先のわたしを見つめてふにゃふにゃ笑ってる。

「ねえ、さんちゃん、今日はなにしてたの?」

いかにも甘くみられそうな質問をあげてみる。さんちゃんは考えるように、少しだけ面倒くさそうに語尾を伸ばした。そのだらけた甘味がわたしは大好きだ。
油断ならいくらでもしたい。さんちゃんが入りこめる隙ならいくらでも作りたい。だからどうでもいいお話、たくさんしてね。

今日は

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