小説 | ナノ

いつもよりもゆっくり時間をかけて登校した。

「いったたた…」
「川西先輩、相変わらず今日も不運ですね。おはようございます。」
「おい不運ってなあ…って、花岡?」

「んー…」
「能勢先輩、おはようございます。眉間にシワ寄りすぎです。あんま溜め込むとまた爆発しちゃいますよ。」
「大きなお世話だ!…って、え?花岡!?」

すれ違った、昔の記憶の先輩に話しかけると皆が驚いた顔でこちらを見た。当然だよね、今まで話したことなかったんだもの。

「あ、三郎次先輩。」
「…花岡、おはよう。昨日は大丈夫だったか。」
「はい。ご迷惑おかけしました。色々なことに答えが出たので…もう平気です。」
「そっか。」
「私、昔先輩がすきだったみたいです。」
「ああ。知ってるよ。」
「今は違いますよ。今の私は昔と違うんですから。勘違いしないでくださいね!」
「それも、わかってる。…早く、行ってやれ。」

誰のところへかなんてこと、言われなくても私が一番わかっている。




「花子、風邪へーき?」
「うん、もう全快!」

教室に入ると、友達が心配して話しかけてくれた。ぐるりと見回した教室に、団蔵の姿はまだない。かわりに夢前くんと目が合った。

心配そうな顔をした夢前くんに私は笑いかける。
―もう私大丈夫だから。


「花子が来なかったから、加藤くん死にそうな顔してたよ。」
「そうそう!早く、会ってあげなよ。彼氏みたいなもんでしょ?」
「…うん、そうだね。」
「ほら、来たよ。」

友達のその言葉で私は入り口に目を向ける。

だるそうにカバンを持った団蔵と目が合った。

彼は私を見て、ゆっくりこちらにやってきた。
友達は、じゃあね、と私のもとから去っていく。

「花子。」
「おはよう、団蔵。」

私ね、と続けようとすると、団蔵は突然しゃがみこんで頭を下げだした。

「ごめん!俺がバカだった。俺はずっと今の花子といたっていうのに、花子のこと何にも考えてなかったんだ。なあ俺はさ、今の花子といたいんだよ、だから、」

団蔵の大声が教室に響く。私たちの周りが皆、こちらに注目しだした。
それに気がついていないのか、気にしていないのかは知らないが、なおも団蔵は言葉を繋げようとしている。私は羞恥心に耐え切れなくなって、音を立てて椅子から立ち上がった。

「団蔵って本当に、バカ。私のこと今考えてよ。ここ、どこだと思ってんの!?」

団蔵はぽかんとして、やっと今の状況に気がついたみたいに「あ…」と言った。

「…移動しよっか。」
「それはそれで、物凄く目立つと思うんだけど、って!だからもう少し頭働かせてよ!」

私の話は聞かずに、いつかのように団蔵は私を引っ張って走り出す。私と団蔵はそのまま教室を飛び出した。

ああ、今頃教室では私たちの話題で持ちきりだろう。最悪だ。






「ホームルーム始まっちゃうよ。」

私たちは人気のない校舎の裏までやってきた。
あと少しで鐘が鳴る。

「いいじゃん。サボろ。」
「余計に、噂されるけど。」
「させとけば。それとも、やっぱり俺と噂されるのは嫌?」

団蔵が振り返って私を見る。じゃり、と砂がこすれる音がやけに大きく聞こえた。

「好きなんだ。今の、花子が。」


切なそうな団蔵の顔。その顔から目を逸らさずに、今の、の響きを心の中で何度も繰り返す。
私は、今ここにいる。ちゃんといるんだ。団蔵の中にも。


「私も、団蔵が好き。」


私がそう言うと、団蔵はとんでもなく間抜けな顔をして、え?と言った。

「えって。」
「いや、また頬っぺた叩かれると思ってた。」
「もうしないよ。」
「花子、本当に俺が好きなの?」

団蔵が首をかしげながら聞いてくる。
好きの気持ちを疑うなんて、やっぱり団蔵は驚くほど女心がわからないらしい。私はため息をひとつ吐き出す。

「私ね、昨日全部思い出したんだ。」
「え…」
「だから、昔のことみんな、わかる。団蔵が好きだったことも覚えているし…団蔵が死んでしまった瞬間も覚えてる。」

団蔵は少し目を伏せて表情を暗くした。

「、ごめんな…独りにさせて。」
「ううん。謝らないで。確かに私、物凄く辛かった。自分の記憶を押し込めちゃうくらい。…でも私が一番愚かだったんだよ。団蔵との思い出から逃げるなんて間違っていたよね。思い出してやっとわかった。ごめんね団蔵。」

何も言わず、首を横に振る団蔵は確かに昔の私が愛した彼とそっくりだ。
けど違う。
バカで強引に今を生きる加藤団蔵なんだ。

「私はあの時の出来事も感情もぜんぶ思い出した。でもね…今の団蔵を好きな私は、今の私だよ。信じて。私も、今の私が好きな団蔵を信じる。」



全てを詰めた想いを言い切った後に

団蔵が、歯を見せて笑った。


そのまま伸びてきた団蔵の手を、私は目を閉じて受け入れる。
確かに今ある温もり。
何故か、懐かしかった。

鳴り響くチャイムの音が静かに始まりを告げる。
その中で団蔵の、ああ、という声だけが妙にはっきりと耳に届いた。




* * * * * * *




「もう、びっくりしたよ僕。ふたりそのまま戻ってこないもんだから、駆け落ちだってみんなが噂してさあ。」
「やだなあ恥ずかしい。」
「でも、良かったね。花子ちゃん。」
「ありがとう夢前くん。」
「花子ちゃん、これ食べた?お祝いだから、僕花子ちゃんのために落雁持ってきたんだ。」
「わっ、ありがとう〜しんべヱくん!いただきまーす!」
「花岡さん、糖尿病と肥満にはくれぐれも気をつけて。」
「あらあらプレイボーイ笹山くんとは思えない発言だね。是非ともファンの子に聞かせてあげたいよ。」
「ところでなんで、兵太夫はまだ花岡さんなんて呼んでんだよ。昔みたいに花子でいいじゃん。」
「僕なりのケジメなの。」
「そんなこと言ってるほうが昔に縛られてるみたいだと思うけどな俺は。」
「うっさいきり丸。」
「乱太郎くん、なんか色々迷惑かけてごめんね。」
「ううん。気にしないで。僕はふたりが昔みたいに仲良くなってくれて本当嬉しいんだから。」

がやがや、騒がしく私たちは虎ちゃんちに集まっていた。
本当昔に戻ったみたいだ。楽しいなあ。

「虎若、お茶もらっていい?」
「いーよ。どうぞ。」
「さんきゅー。」
「あ、団蔵僕も。」
「俺も」
「僕も」
「僕も」
「私も」
「お前らなあ、今日は俺主役だろ?敬えよ。」


「さ、みんな飲み物ある?」
「はーい!」

庄ちゃんが取り仕切る姿に、私は笑ってしまう。変わらないなあ。

「えー、今日めでたく花子ちゃんと団蔵がお付き合いされました。」
「ひゅーひゅー」
「よっ」
「おめでとー!」

改めて言われると恥ずかしい。私はちらりと団蔵を見る。
団蔵は少し頬を染めて、同じように私を見ていた。それがおかしくて、二人で吹き出してしまう。

「いろんな障害を乗り越え、再び結ばれた僕らのともだちである彼らを祝って乾杯しましょう!」

私の目の前で笑うみんな。わたしのともだち。わたしの彼、団蔵のともだち。


「乾杯!」


わあ!と押し寄せるコップ、
私はにじんだ視界でそれらに応えた。

Fin.


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御礼連載完結です^^
はじめ不安だらけのサイト運営でしたが、多くの方々に来ていただき、5000Hitを迎えることができました。本当にありがとうございます。
不規則更新ですが、これからもどうぞ宜しくお願いします。

は組をみんな登場させようという気合で臨んだ連載でした。黒木くんの出番が少ないのが心残りですが書いていて楽しめたのでよしとします。ここではあまり書けませんでしたが、わちゃわちゃなは組がとっても大好きです。
二年生が出張るのはご存知の通り愛故です。今回はイケメン池田でお送りしました。

それにしても私は振り回すだけ振り回すのが好きみたいですね。傾向で趣味がバレバレなんて恥ずかしい。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました!!

2011.1130



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