小説 | ナノ

「わーん!」
「ど、どうしたの。喜三太くん…」
「うう、ぐすっ、さ、さぶろーじ先輩がっ、」
「うんうん、三郎次くんがどうしたの?」
「ぼ、僕のナメさんたちを隠したんです…ぐす」
「ええ!?」
「うう、ナメさーん…」
「そっか、喜三太くん、私と一緒に三郎次くんのところに返してもらいにいこう?」
「え…っと、」
「さ、行こ?」
「あ、花子先輩!っ待ってくださあい!」

私は喜三太くんの手をとって歩き出す。
全く、三郎次くんは良い子なのに、どうして一年生をからかうのかしら。

「喜三太くん、どこに三郎次くんはいるの?」
「えっと、今は…二年生みんなで遊んでます。あそこで。」

喜三太くんの指差したほうを確認すると、確かにボールを投げ合う青色集団の中に緑の髪の彼がいた。

「でも、花子せんぱい、やっぱりせんぱいは…」
「ホラ、喜三太くんは悪くないんでしょう?行くよ。」

眉を下げる喜三太くんと共に、私はドッジボールをする二年生に近づいた。

「せ、せんぱい…いいですよお…」
「三郎次くーん!」

私が声を張ると、三郎次くんは驚いた顔でこちらを見て、いつものぶすっとした顔になった。

「な、なんですか花子先輩。」

ツンケンした態度だけど、ちゃんとドッジボールを中断させて来た彼はいつもの如く礼儀正しい。うーん、とっても私には良い後輩なのにな。

「喜三太くんのナメクジさん、返してもらっていいかな?」

私ができるだけ優しくそう言うと、三郎次くんは顔を赤くして恥ずかしそうにした後、キッと喜三太くんをにらみつけた。それを見て喜三太くんが縮こまる。

「三郎次くんっ、睨まないの。人のものを勝手に隠すのはどんな理由があってもよくないよ。ね、返してあげて?」
「…はい。ナメクジなら、あそこの茂みの影に置いてあります。」
「うん、ありがとう。」
「その、…花子先輩。俺のせいで迷惑かけてごめんなさい。」
「あらら、三郎次くんが謝るのは私じゃないでしょ、ほら。」

ずいっと喜三太くんを前に出す。
喜三太くんがおろおろして私を見上げてくるのでにこりと笑ってみせる。三郎次くんはそんな私たちを見て、赤い顔を少し下げた。

「…悪かったな、喜三太。」
「い、え。」
「はい、仲直りでいいかな?喜三太くん、ナメクジさん探しておいで。」
「…はい!」

良い返事をして、喜三太くんは一目散に茂みへと駆けて行った。それを見送って、私はもう一度三郎次くんに向き合った。彼は口を結んで下を向いたままだ。

「さぶろーじくん。」
「…なんですか。」
「偉いぞっ」
「うわっ」

私は三郎次くんの頭を両手で挟んでわしゃわしゃ動かす。三郎次くんは突然のことに驚いたのか真っ赤になってやめてくださいを連発した。

「ちゃんと素直に謝れて偉い!三郎次くんのそういうところ、私は好きだぞっ!」

それを聞いた三郎次くんはさらに顔を真っ赤にした。

「こ、子供扱いやめてください!」
「よーしよし!」
「だからっ!花子先輩!」



* * * * * *



「あ、喜三太。ナメクジ取り返せたんだ?良かったね!」
「乱太郎!うん。良かったあ。実はね、花子先輩が三郎次先輩のところに一緒に行ってくれて取り返してくれたの。」
「えっ!?それって大丈夫なの…?だってもともと花子先輩が僕らと仲良いからって三郎次先輩が嫌がらせしてきたんじゃない。」
「僕も不安だったけど、大丈夫だったよ。三郎次先輩も素直じゃないよねぇ。花子先輩と遊びたいならそう言えばいいのにい。」

更生させます!

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