「最低ね」
「ああ、そうだな」
「信じられない」
「うん」
沖田は責め続けるだけで、対する土方は頷くだけで、二人の会話は一向に収束しそうにない。
「聞いてます?」
「ああ」
「そうには思えないけど」
「そうか?」
そうでもないんだけどな。
土方は頭を掻く。困った時に出るこの男の癖だった。
「近藤さん、怒ってた?」
沖田は些か声を落として訊く。彼女の視線は、さっきから自分の爪先にあった。
「いや、それはないんじゃねーの」
適当に応える土方の背中をちらりと見ると、妙に疲れている気がして、沖田はまた言い様のない罪悪感に苛まれた。
「土方さんは?」
「何が」
「怒ってます?」
「ああ、この間の報告書をしらばっくれて出してないことにな」
それから、怠慢癖と破壊癖と自己中心的なその性格はとっくに怒りの許容範囲を通り越してるなあ。
赤になった信号に止められてブレーキをかけながら、土方はからりと笑った。
日頃は傍若無人に振る舞っているが、沖田はやっぱり繊細な側面がある。車に乗ってから今まで、しきりに何かを言い出せずにいることを、土方はとっくに解していた。
それはどうも。
窓の外を眺めて吐き捨てた後部座席の沖田の顔は、土方の位置からはちょうど見えない。
けれども恐らく、至極不機嫌な顔をしていることは、容易に想像が出来た。
思わず漏れた笑みに、世界を睨み付けている沖田は多分、気付いていない。
「まあでも、今回は別だ」
視界の端に入った歩行者用の信号が、早くも点滅し出したのを確認して、土方はゆっくりとブレーキを上げた。
「総、よくやった」
ちょうどこちらの信号が青に変わり、車は進み出す。無論返されることのない言葉に、会話は自然と打ち切られ、土方は自分の集中を前方の道へと移した。
「ありがとう、迎えに来てくれて」
車から降りる時になって、沖田はそんな言葉を置き忘れていった。
ひとりだけではさみしい、ふたりだけではなきたくなる
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夢見草のさやさんより戴きました。