紙の上を走らせていた筆を置き、口に加えていた煙草を灰皿に押し潰す。残った紫煙を吐いて時計に目を移した――七時前、まだ連絡がないとするとやはり宮口はおびき寄せる餌であったか。
可能性の一つとして考えていた。だからと言ってぞろぞろ大人数で行っては相手に感づかれ逃げられてしまう。そう思い二人だけ向かわせた。
真選組随一の腕を持つ沖田とそれに次ぐ永倉。もし大軍が押し寄せて来たとしても一人で突っ走る沖田とは逆に永倉は慎重に事を進める質。無理だと分かれば援軍を呼ぶ筈だ。

土方は筆の横にある小さな箱を手に取り人差し指でトントンと叩く。

「副長、山崎です」

出てきた煙草を取り出していると襖の向こうから声が聞こえてきた。懐のマヨライターを取り出しながら目を遣る。

「入れ」
「失礼します、少し気になる情報が入りましてね…」

入るなりすぐ用件を言う監察に自然と眉間に皺が寄る。こういう時はあまりよろしくない情報だ。取り出したマヨライターを机の上に置き、立ったままの山崎を見る。

「何だ」
「沖田さん達…まだ帰られてませんよね?」
「あぁ」
「奴等何やら変な薬を所持している疑いが出てきまして…これが本当だとすると例の七人がやられた理由もはっきりするんですよ」
「薬?麻薬か?」
「まぁ…そんなとこでしょうか。例によって例の如く天人産です」

土方は溜め息を吐き、再びマヨライターを手に取った。敵である天人が作った物なんぞに頼らない方法は考えられないのか、内心呆れつつフリントを回す。

「どんな?」
「嗅いだ者の脳を混乱させると言った実に天人らしい薬ですよ」

「…七人がやられた理由にどう関係がある?」
「この薬にやられた者は仲間を攻撃するようです。恐らく七人は宮口にやられた訳ではなく同士討ちにあったのではないかと。検視で七人の刀傷を調べれば確実かもしれませんね」
「…まずいな」

一度口に加えた煙草をすぐに離した。煙草の先から出る紫煙が開けっ放しの襖から吹く風にゆらりと揺れる。

「あの二人というところが仇になったかもしれねぇ」

チッと舌打ちをして煙草を灰皿に置き、変わりに机の隅にある紙を手に取る。
どちらもそんな状態になられては手に負えない、特に小さい方がなればもう片方は一人で何とかしようと無茶をするだろう。

「あの辺りは三番隊か、ちょうど良い。斉藤に行くよう連絡しておいてくれ、俺も後から行く」
「わかりました」

もし杞憂であれば亜麻色に睨まれる事になるだろうが、勤務表を机の上に投げ苦々しく頭を掻いた。無造作に放られた紙が風に吹かれ宙をひらりと舞う。

「湿ってるな。また雨か」

先程まで光っていた星が消えている。おぼろ雲に覆われた月だけが不気味に光っていた。





prev next


第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -