薄暗い室内。月明かりだけが光源となる戦場では酷く視界が悪い。二階という場所も災いとなって民家の明かりも届き辛く、視覚はあまり使い物にならなかった。その他の役立つ感覚を更に鋭敏にさせて戦いに望む必要がある。

 血溜まりを踏んだ際にする微かな音が、敵の存在を知らせた。辛うじて捉えている眼前の浪士からは目を離さず、右手に握った刀を横へ払う。肉を断つ感触を手応えに断末魔が聞こえた刹那、眼前の浪士から突きが繰り出された。咄嗟に崩れ落ちる浪士とは反対側へと身を開けば刀身が空を裂く。すると未だ離さない視線の先、浪士が笑みを浮かべた。避ける為に身を置いた場所は敵方にとって最良の場所。音もなく忍び寄り控えていた新手は待ち兼ねた獲物の侵入に既に振り上げていた刀を勢いよく下ろした。沖田は凶刃を持つその手に、刀の柄頭を強く撃ち込む。痛みと驚きに思わず刀を離した浪士を足蹴にし、一瞥をくれて心臓を串刺しにした。目を見開く眼前の浪士には逆袈裟斬りをお見舞いすると、鮮明な血が勢いよく吹き出す。呆気なく罠を打破された浪士達は、その早業を理解する間もなく息絶えた。

 粗方の浪士を片付けた沖田は、散らばる骸を極力避けて歩を進める。踏み倒された襖の向こう、敵に囲まれた近藤の姿に眉根を寄せた。足元に落ちる鈍刀を空いた左手で拾い上げ、距離のある浪士に向かって投げ付ける。寸分の狂いなく仕留められた浪士はその場に崩れ落ち、異変に気付いたその他の浪士が横目で此方を見遣った。囲まれていた近藤はその隙を見逃すはずもなく、数人を一刀で斬り捨てた。強者に挟み撃ちに合う浪士の間では、極度の緊張が走る。

「相当数斬ってるんですけど、誰か殺られましたかね」
「恐らく奥沢と羽村だろう。裏口の階段から回って来ているから」
「その上、一目散に逃げたと思った奴が仲間連れて戻って来たとか最悪ですね」

 緊迫とした状況を物ともしない沖田と近藤は、揃って視線を裏口へ繋がる外階段に向ける。

「一階は大丈夫だろうか」

 近藤がぽつりと呟いた刹那、囲っていた浪士の一人が足を強く踏み出した。行動を先読みしていた沖田は行く手を阻む者を切り伏せ、近藤を狙う浪士の首を刎ねる。沖田が自分を守るように立ちはだかるのを確認した近藤は、室内へと続く階段の欄干に手を掛けて身を乗り出した。

「永倉ァ!!藤堂!」

 怒号に近い声で階下に向かって叫ぶが、返ってくるのは剣劇と雄叫びばかりで、聞き覚えのある声は返らない。暫しの間を置いて再び叫ぶも同様。聞こえない筈はない。ならばそれ程までに切羽詰まっているのか。

「近藤さん、行って下さい」

 一人奮闘する沖田が冷静に促せば、辺りに視線を投げた近藤は首を振る。敵は幾らか少なくなったが、裏口に繋がる外階段からは勿論、表に繋がる内階段からも敵は押し寄せて来る。沖田の体調を憂える近藤は、この人数は負担が大き過ぎると判断した。

「・・大丈夫だ。永倉と藤堂ならきっと、」
「平助ッ!!!」

 階下から叫ばれた名前に、近藤は素早く振り返る。一層高まった剣劇と雄叫びに沖田も只事ではないと察知し、嫌な予感に心臓が不規則に拍動した。

「近藤さん!早く!!」

 沖田の荒げた声に、近藤は背中を押されたように欄干を飛び越えた。近藤は階段を上って来る浪士を足蹴にし、刀を振るって強引に道を開けながら下りながら、すぐに戻るからと声を上げて沖田を鼓舞する。
 慌ただしい背中を見送った沖田は、堪えていた咳を剣劇の合間に零した。





それはまるで不幸の象徴







「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -