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無邪気な双子



「ティリア。そろそろこちらに住み始めたらどうだ」
「………はい?」


婚約をして共にいる時間を増やした。
だが何かが足らない。もっと側に足らないのだ、ティリアの存在が。
ティリアは未だに自身の家から、ここまで通っている。こちらには住まずにわざわざ私のもとに赴いているのだ。

「いつまでも通い妻のままか?」
「いっいえ! ではさっそく…両親に話を付け、明後日ほどに」
「別にそんなに急がなくてもいいが…」
「いえ!殿下がそう仰ってくだされば、すぐにでも来るつもりでしたので」


まったく…こんなにも好かれていては調子が狂う。しかしこの娘と生涯を共にすることを誓うのだ。そうも言っていられまい。
半分諦めがついたともいえるが、なんとも嬉しい笑顔が作れる。

「まぁこちらに来ることは今すぐには良いとして、義弟達にあわないか」
「おとうと?レオンティウスさまですか?」
「いや、まだ幼い双子の方だ」
「あぁ!あの双子の」
「そろそろ、会っておいても良い頃だと思ってな」


勿論、会いたいです、といったティリアを連れ、双子がよく遊んでいる部屋へと誘った。
周りの者もあまり構っていられず、いつも二人で遊んでいてそろそろ何か駄々をこねる頃だろう。







部屋へついたが二人は居らず、まさかと思いあまり人気のない自然あふれる庭園へ足を運ぶと、案の定二人はそこにいた。

「あ!スコピ兄さま!」
「エレフ、ミーシャ」

私に気づいたのは義妹のミーシャ。うれしそうに私を指さし駆け寄ってくる。
遅れて義弟のエレフも寄ってきた。


「ここに二人で来てはならないと父上に言われただろう?」

ぽんっと二人の頭に手を置いて、少し低い声で問うてみる。二人はその声の低さに気づいたのか、少しうなだれた表情になった。

「うぅ」
「だって、つまんないんだもん」

ぷう、と頬を膨らませるエレフに、自身の服を掴みながら私に言い訳を話すミーシャ。

「エレフはついこの間、木の枝にひっかけて腕を血だらけにしてきただろう?ミーシャも虫に刺されて心配をかけただろう…」

ふと、説教をしていた。側にはティリアがいたのに。
ティリアも私が子供にこんなにも接しているところを見て、少し驚いているようだ。


「ごめんなさい…」
「じゃあ、今度はスコピ兄についてきてもらえば」
「私は私で忙しい。ちゃんとお前達に仕える者が居るだろう?そいつについてきてもらえ」
「「はぁい…」」


よしよし、と頭に置いていた手をがしがしと動かし頭を乱暴に撫でてやる。
すると、ミーシャが私の側にいたティリアに気がついた。


「スコピ兄さま、その人は?」
「あぁ、今日はこの人を紹介しに来たんだ」
「「??」」

頭に?を浮かべる同じ顔をした二人。私は隣に来るようにティリアの肩を抱いた。


「もうすぐ私の妻になる、ティリアだ」
「お、お初にお目にかかります、エレウセウス様、アルテミシア様。ティリアと、申します」
「つま?」
「じゃあスコピ兄さま、結婚するのね!」

きらきらと目を輝かせながらティリアを見るミーシャ。
そういえば以前、レオンが結婚についてミーシャに問いただされていたな。ちゃんと結婚相手は自分で決める!とも言っていた。


「結婚か…じゃあ姉さんになるってことだよな」
「じゃあティル姉さまね!わぁ、女の兄弟だわ!うれしいっ」

余程うれしかったのか、ミーシャは小走りで駆け寄りティリアの腰へと抱きつく。嬉しがるのも当たり前だ。私にレオン、エレフと男兄弟しか居なかったのだから。
しかしティリアは王女であるミーシャや王子であるエレフに興味津々な目で見られて緊張しているのか、あわあわとしている。
…私も一応、王子なのだがな。


「あああアルテミシア様っ」
「?」
「私のことはティルでよろしいかと」
「なぜ?スコピ兄さまと結婚するのでしょう?」
「しかし…」
「スコピ兄と結婚するなら、ティル姉も王家の仲間入りだよ」
「そうよ!エレフの言うとおり。私たちの姉さんになるんだから、ティル姉さまよ」

ミーシャは小さな手をティリアの手に重ね、ふふふ、と笑った。うれしさが顔から滲みでて、押さえきれないと言ったところだろうか。
二人の強制な呼び方に少し戸惑うティリア。
しかし私の妻になると言うことは一応、王家の者になると言うこと。レオン含めこの二人の義姉になるということだ。


「ティリア」
「殿下…」
「一応、私もこの国の王子。私の妻になると言うことは王家の人間になることだ」
「そう、ですね…」
「色々とあるが、ここはエレフとミーシャが正しい」
「はい」
「あれ、スコルピオスとは呼ばないの?」
「バカね、エレフ。夫婦になるなら“あなた”でしょう?」
「でも俺は名前で呼ばれたいな…」

私のことを名前で呼ばないのを疑問に思ったのか、二人で討論をはじめた。
しかし二人で言い合っていても終わらないのが分かったのか、ティリア本人へと標的を変える。

「なんで名前で呼ばないの?」
「ねえティル姉さま?」
「よっ 呼びますよ!」
「あ!もしかして、夜だったりして!」
「きゃっ 大人の時間ね!」

夜、とか、大人の時間、とかを言葉にしているこの二人は、その言葉が何を表しているのか分かっていないだろう。
しかしその言葉をそのまま受け止めたティリアは、顔を赤くしていた。

「な…!」
「あれ、違うの?」
「おおお二人はまだ知らなくても良いことです!」
「「えー…」」


…まだ夜を共にしたことはないが(こちらに住み始めてから手を出そうと思っていたからだ)、さすがにその手の話題を出されるとこちらも恥ずかしくなる。
ましてやティリアが反応してしまったからには。


「こらこら。そんなにいじめるな」
「いじめてない!」
「ティル姉さまのこと、知りたいだけよ」
「まあいい、部屋へ戻って本を読んでもらったらどうだ」
「そうだ!ティル姉さま、読んでほしい本があるの。よんでよんで!」
「わ、わかりましたから走らないでください!転んで怪我をしてしまいますよっ」


ティリアの手を取り走り出すミーシャ。こんなにも喜ぶとは、本当によかった。
エレフはエレフで姉ができたことに少なからず喜んでいる。

…最初からこんなにもふれあえれば、問題は無いだろう。
あぁ、こんな日々が。こんな日々が続いてくれることを祈る。


部屋へ向かう三人の後を追い、私はその場を後にした。





――――――――
レオンと絡ませなかったのは仕様です。
とりあえず双子には気に入られた模様。

書き終わり 2009.02.20.
加筆修正 2011.09.05.
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