離さないで
雪深き小さな村。
その村の人形師の家に、私は通う。
「イヴェール!」
ばんっと扉を開け、家の中にいるだろう人の名前を叫ぶ。
扉を開けて目の前にいたのは、叫んだ名前の人物の妹、ノエルだった。
「ティリアさん、こんにちは」
「ノエル!こんにちは。人形の方はどう?」
「順調です。兄様の買ってきてくださったお洋服がとても似合うの!あ、兄様なら奥に…」
「ティリア!勢いよく扉を開けないでくれ!家が壊れ…」
「イヴェールっ!」
奥の部屋からでてきたのは目的の人物。私はその人に向かって勢いよく飛びかかった。
「っ、と。危ないな…」
「おかえりなさい!」
「ただいま」
イヴェールはいつも私をしっかりと受け止めてくれる。文句もいうけど、しっかり捕まえて受け止めてくれる。
なにをいっても、やっぱり私は大事にされてると改めて思う。
「とりあえずジャンプで飛び込んでこないでくれるかな…それと扉は静かにあけて欲しいな。あと僕のこともちゃんと考えて行動に移してくれないか…」
「だって!帰ってきてるなんて知らなかったんだもの」
そう、今の今までイヴェールは町へ繰り出していた。
ノエルの作った人形を売り、そのまましばらく町で仕事をする。
その間、家にはノエル一人になるため、世話をするのが村長家族と、イヴェールの恋人でもある私であった。
久々に会う恋人。
嬉しくないはずはない。長い間離れていたのだから。
「いいじゃない、寂しかったんだから。久々に恋人に会えるっていうのに騒がない方がおかしいわ」
「そうよ、兄様。半年近くも家にいないのに、ほかに男の人も作らないで待っていてくれるユーキさんに感謝しなければいけないのよ」
「の、ノエルまで…」
でも待つのは嫌いじゃない。
こうやって久々にあうと、いっぱい甘えさせてくれるから。
「ノエル、ちょっと出てくるよ。夕飯までには帰るから」
「はーい。ティリアさんとごゆっくり」
「ノエル!…まったく」
雪が積もって寒いため、上着を羽織って外へでる。
ノエルを残し、私たち二人は村の開けた場所へと歩いた。
「町はどうだった?仕事は?」
「上々だったよ。いつもよりいい方だった」
「そう…」
「こっちはどうだった?」
「薬屋の娘さんに赤ちゃんが産まれたわ!」
「あぁ。そういえば、生まれる時期だったね」
「可愛かったわ。男の子よ」
イヴェールがいなかった時の村の話、イヴェールの訪れた町の話。小さなことまでこうやって報告するのだ。そうすれば、イヴェールが長くそばにいてくれる。
長くなると思うと、互いに座る場所を探しながら話をする。今日もまた、長くなりそうだ。
「ティリアは変わらないね」
ふと、イヴェールが止まった。つられるように私も止まる。
「私?」
「ああ。変わらず、待っていてくれる」
私の頭にぽんっと手を置いて、笑顔でなでてくる。
そのては半年前と変わらず、大きく暖かかった。
「私、変わったわよ」
ぽすっと、イヴェールに抱きついた。
私は変わった。半年前より大きく。
「どこが?」
「前より独占欲が強くなったわ」
「…っく、」
「笑わないでよ…」
「ごめんごめん」
「イヴェールのこと、離したくないわ。わがままかしら…?」
「僕もティリアを離したくないよ」
イヴェールが強く強く抱きしめ返す。
このままイヴェールの腕の中でつぶれてしまいたい。つぶれて、彼のものになりたい。
「もう、ずっと離したくない。帰したくない…」
「…それ、僕のセリフだと思うんだけど」
「いいの!」
「まったく…しかたないな」
私を慰めるように頭をぽんぽんと撫でる。
子供じゃない、っていいたいけど、心地良い。だから文句を言わずにやっていてもらう。
「いつもいつも、待っていてくれてありがとう」
「好きだもの。待つわ」
「…ありがとう。僕も好きだよ」
寒さなんて感じないほどに、お互いの体温を感じながら抱きしめあった。
離さないで、とはいわないでおく。
「じゃあ、今夜は離さないでいようかな」
「へ?」
「ティリアがいったんだろう?要望に応えて今日は帰さないよ」
「えっ あ、」
―――――――――
人形師イヴェール。
ちなみにヒロインは村でなんとか働いてます。時々隣町とかに行ってたりするくらい。村から徒歩で!
きっと村に帰ってきて一週間とかはラブラブしてるんです。
書き終わり 2009.05.17.
加筆修正 2011.09.08.