さあ君の想いは?
今日はいつもと違う道で帰ってみた。買った果物が腕の中でよく香る。空も段々と青が薄くなり、家路につく合図。
しかし…
「よぉ、ティリア」
「…………」
見知った顔だと思ったけど、見間違い聞き違いと自分に言い聞かせてその場を通り過ぎようとする。
けれどそれは腕を捕まれて無意味に終わった。
「おい、無視かよ」
「もう…なんなのよ!イヴェール」
銀色の少し長い髪を後ろで一つに結び、揺らして歩く。
内から染み出ているSっ気のある顔。ここらで最近様々なものを盗んでいる張本人だ。
「いいネックレスが手に入った」
「どうせ盗んできたやつでしょ。いらない」
「違う。盗んだやつを売って得た金で買ったやつだ」
「結局は同じでしょ!もうっ」
いつからかイヴェールは私にプレゼントをするようになった。
最初は遊びのつもりだろうと受け取っていたが、段々とそのモノの値段が上がり、最近ではネックレスや香水などをくれる。
盗賊の彼だ。盗み出したものをどうにかしているに違いないと考え、いつからか受け取らなくなった。
遊びのつもりならいつまでも私に構わないで。私は本気にしてしまう。私1人だけが、勝手に。
そんな私の願いはあっけなく崩れ、イヴェールはアプローチを続けて私もいつからかイヴェールを好きになっていた。
イヴェールがまだ私を好きなのなら、この思いは報われるかもしれないけれど。
でもイヴェールだから分からない。表に感情を出さないからなかなか分かりにくい。だからこそ私はこの思いを認めたくない。
「なあ、いい加減受け取れよ」
「受け取らない。そんな高価なものもらっても、する機会がないもの」
「ったく…」
私の後を付いてくるイヴェール。そのまま家に帰ってもあれなので、賑やかな市場のでている方へとでる。
見まわっていると美味しそうなリンゴを発見し、2個購入。他にもないかキョロキョロしていると、今までおとなしかったイヴェールに腕を掴まれ、少しはずれた公園まで連れてこられた。
「ちょっと」
「おい」
「な…なによ」
すっと何かをポケットから取り出し、それを私の首へと運ぶ。
イヴェールの手は私の首の後ろにあって、イヴェール側から見るとなんだか抱きしめられているみたいだ。
抱きしめられているみたい。自分で思いながら少し顔を赤くする。
イヴェールが前から退いたと思うと、私の首には小さなハートのネックレスがかかっていた。
「これ…!」
「それだけは受け取れ。ちなみにそれは昼間働いて得た金で買ったやつだからな」
イヴェールはそれだけ言ってその場を去っていく。
私は少しの間固まり、後ろ姿をずっと見てしまっていた。
「…っは、反則だ」
あんな顔を真っ赤にしながら、強気になってものを言う。
私も恥ずかしくなってその場にしゃがんだ。
しばらく人が訪れるまで、恥ずかしくてうれしくてその場を動けなかった。
首には、先日ローランサンにかわいいとぼやいたネックレスをぶら下げて。
さあ、君の想いは?――――――――――
盗賊イヴェのSっ気をだしたい。
書き終わり 2009.02.26.
加筆修正 2011.09.04.