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はじめての夜




疲れていたので、世話係の方が少し長く湯浴みをさせてくれた。し、初対面の人だからなるべく自分の身体は見られたくないんだけれど!

「ティリア様のお身体はきれいですね。真珠のようです」
「本当、羨ましいです」

はあああ!そんなお世辞をいっても赤くなるだけだからやめてほしい。世話係の方々は私の髪を、身体を、丁寧に洗いながら私に話しかけてくる。

「私、ティリア様のお世話ができて嬉しいですわ。今夜は一肌脱いでお世話させていただきます」
「…えぇ?!」
「少し長くなるかもいたしませんが、お許しください。今夜は特別な夜なんでございますから」


特別な夜…。
確かに、スコルピオス様と過ごす初めての夜。多分、世話係の方はそういうことを言っているのだろう。

「ふふ。ご心配いりません。お任せくださいませ」
「おっ お願いします…」


最後の方の言葉が小さくなった。
嫌でも意識してしまう自分が情けない。嫌なわけじゃないのに、自分の心臓が爆発しそう。

ああ…私、どうなっちゃうのかしら。







****




…もうすぐ。ティリアが私のものになる時刻が近づいてきた。
何故だろう。何か変だ。
女など幾度も抱いてきたくせに、何故だか変な気分だ。このまま抱いてしまってもいいのかと思う。
一旦、欲のままに動けばティリアを壊しかねない。…それが怖いのか?だが、あの娘はなにをし出すか分からん。知らぬ間に私の欲をかき立てる。

キィ…と、扉が開く。
そこに立っていたのは湯浴みを終えたティリアだった。


「入れ」
「失礼します」


手には花を持っている。その花を月の光がさす窓辺へと置いた。

「少し、お待ちいただけますか」
「あぁ、構わん」


私の了解を得ると、ティリアは私の部屋に無数においてあるティリアが世話をしている花の様子を見始めた。まったく、こんな時まで花、か。そこがこの娘らしいところだがな。
しかし何だ、あのぎこちない動きかたは?自然を装おうとしているのか。それでもおかしい。

一通り目を通したのか、私の近くへとくるが、何をしたらいいか分からないらしく突っ立ったままでいた。


「隣へ来い」
「は、はい」


寝台へ座っている私の隣へ腰掛けるようにと命じた。右隣へと腰掛けるティリアは、なんだかおとなしかった。
少し間をあけて座っているのは気にしないでおこう。
こちらへ引き寄せようと肩を抱く。するとびくりと身体を大きく揺らした。…吃驚したのか。

「あ…っ」

…よく見ると手が震えていた。
抱かれるのが怖いのか。
経験はない。怖いだろう。だがこんなにも怖がられては手が出しにくい。

「怖いか?」
「あ、の…スコルピオス様…」

落ち着かせようとするが触れたらよけいに怖がりそうで、何をしたら良いかわからない。
試しに顔を近づけ、口付けをしようとするが堅く目を瞑られる。

「…やめておくか」
「ちが…!」
「別に構わんぞ」
「違うのです!ただ…ただ、初めてで、心の準備が出来ていないのです…」

ごめんなさい、と遠回しに言っているのか。だがこんな状態では抱くにも抱けない。仕方ない、今夜は諦めるしかないようだ。
…しかし、楽しみだったのも事実。いろいろと考えていたことが少し先延ばしになったな。
ふ、と気が抜けたらしく、私の口は小さく息を出していた。


「…スコルピオス様」
「? どうした」
「だっ 抱いて、くだ、さい」
「だが…」
「スコルピオス様は誤解をされています!私は、確かに緊張してはいますが、だから今日は抱かれたくないと言っているのではありません…ただ、この状況が始めてで何がなんだかわからず戸惑っているだけで、決して抱かれたくない訳ではないのです…」


ではどうすれば良い?
多分ティリアは私と二人という空間も慣れ始めてきたところだろう。下手に手を出しても逆効果になるだけだ。
しかし何もしないのも先へ進まぬ。
先ほどと同じく肩を抱く。同じ反応をしたが今度は力ずくでこちらの腕の中へ引き寄せた。

「ひゃっ」
「…怖がるな。大丈夫だ」

とくとくと、触れる胸から早く大きな鼓動が聞こえる。それと同時に、自分の鼓動も聞こえてくる。思った以上に早かった。

「スコルピオス様…」
「なんだ」
「スコルピオス様の鼓動も、早い」
「…悪かったな」
「いえ、なんだか同じなんだな、と思っただけです」

ふふ、と笑うが、相変わらず手は震えたままだった。
しかしその震える手で、私の服を掴んでいる。懸命に大丈夫と思わせているようだが、震える手がまだ不安を消せていない。

「あの…間に入れていただけませんか?」
「間?」
「足の間です」

右隣に座っていたティリアは私の足の間へ身体を移動した。真正面から抱きしめる。
いつもと違った甘い香りが、鼻を掠めた。







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