「これとこれどっち食べよー、なやむー!」
「どっちも頼んだらええやん、俺がおるやろ」
「どうしよう治がめっちゃかっこいい」
「おい食いすぎんなよブタ、跳べんようなるやろ」
「ブタとか言いなや。宮は一生豚肉を食べるな」
「みょうじー、こいついっつも俺にブタって言うてくるねん。ひどない?」
「あららーひどいなぁ?可哀想なサムちゃんにはベーコンあげよなぁ」
「お前もいつも言うとるやろがクソサム甘えんなや!なまえちゃんも何ノッとんねん!角名はツッコミサボんな!」
「無理。聞いてるだけでカロリー消費すごい」

角名くんが省エネの挙手で呼んでくれた店員さんに注文を済ませる。
一息ついたところで、気になっていたことを考える時間ができる。
私の右側は壁、左隣に宮、正面には角名くん、その横に治。
がたいのいい人間が三人もいて、テーブルと椅子が小さく見えるし、宮と壁とに挟まれて座っているからか、袖が触れそうなくらい距離が近く感じる。

「角名くん席かわらん?私と治わけっこするし」
「侑の隣きつい」
「こちらこそや」
「じゃあ宮かわって」
「女の子は奥側やろ?関西の男はわかってないさーってこっちの人らにナメられてまうやろ?」
「じゃあ宮と角名くんがかわって宮と治がかわってや」
「どんだけかわりたいねん。なんや俺が横やから照れてるん?」
「ちゃうわ!」
「みょうじは誰の横がええの?」
「双子が並んでるとこ見たいなぁって」
「みょうじさんここで双子乱闘見たい?」
「あはは!めっちゃ見たくない!」
「もうええやろ。おい角名そいつ見とけよ、顔に米粒つけて、みょうじが取って?とか言いだすでそうなる前に角名が取れ、角名ならできる」
「お前が取れよ双子だろ」
「なんなん?治の米粒を取り合うん?私も取りたい」
「こわい話やめて」

宮は近いし、交流の少ない角名くんの正面で食事をとることに少し緊張するし、席順を間違えてる気しかしない。隣も正面も治だったらどれだけ安心できただろう。
治があと二人いれば、と思い宮の横顔を見る。こっちから見ると前髪がかかっていて目が合わなくて、まだ安心できる。そんなことを思っていると顔を傾けられて、やっぱり目が合う。
何かを待ち構えるようなこの表情を宮はよくするけれど、同じ顔を持つ治はしない。
宮は治じゃないし、治は宮じゃない。みんなが言っていることを今少し理解しそうになって、考えることをやめた。
治と角名くんはタコライスのタコが何なのかを真顔で話し合っている。手元にあるスマホで調べるでもなく、タコから広がる無駄話で時間をただ消費するようにくりひろげている。
治は決勝には出ていなかったけど、この人たちがつい数日前に何かの大会で体育館を沸かせたあのバレー部員だということがいまいち繋がらない。
遠くから見たあの人たちは何よりも強くて立派でかっこよくて、近くで見るこの人たちは背伸びしないで付き合える楽しい同級生だ。

「メシまだかな、みょうじ、ちんすこうある?」
「宮これ治にわたして。こういうことやろ?」
「何?こわい話始まった?どういうこと?」

治たちと合流する前に、そういう話をした気がする。治に食べ物をやるなとか、見てないところでは絶対にやるなとか、そんなことを言っていた気がする。
宮はいつも、さっきも治がバレー選手として身体を維持できるよう、食べすぎないように注意している。バレー部を応援する者として邪魔はしないようにしたい。

「モノわたされるの嫌なんやろ?うちの治に勝手にモノを与えないでくださいって話やろ?」
「こっわ!その頭の中ってタコつまっとるん?」
「なんでいきなり喧嘩売られてんねん」
「お前らなんで喧嘩しとんねん、はよくれ」
「お前はメシの前にモノ食うなや!」
「治ー、この人なんか弱ってるみたいやねん。帰ったらバレーしたってや」
「なんやみょうじツムの嫁みたいやな」
「ヨヨッ!?メメッ!?」
「オッホホ!」
「この二人言語どこやったん」

治の発言で勢いあまって浮いた膝がテーブルにぶつかって痛い。
やっぱり、三人が大きいだけじゃなくて、このテーブルも小さい。お店のスペースをなんとか広く見せるための空間づくりに押し込まれるように、私たちは座っている。そのせいで宮との距離が不自然に近くて、治の目にもそういう距離感のものに見えてしまうのかもしれない。
まっすぐ座る力さえ抜けていって、宮と反対側の壁にもたれると、角名くんは「撮っていい?」と楽しみだした。撮らないでください。

「おいこらロコツに嫌がるのやめてもろてええですかー!?サムのせいやぞタコサム!」
「お前らガタガタ騒ぎすぎやろ」
「みょうじさん、治のことはほぼ侑だと思って気をつけたほうがいいよ」
「それ忘れてたわ…でも治と会えたら宮も元気出たみたいで良かったわ…はあ」
「ハァ!?」
「声量ー」

話題を切り替えたいちょうどいいタイミングで料理が運ばれてくる。自分のものも人のものもおいしそうで、私と治の意識は一気にテーブルの上だけに向かった。
小さな四人席に五人前と取り皿が敷き詰められて、私と角名くんはスマホを構える。治はもう両手を合わせていただきますをして顔をほころばせている。

「二人ともメシなんか撮ってどーすんねん」
「思い出やんなぁ角名くん?」
「侑はお子様だからわかんないんだよ。俺とみょうじさんは同じ思い出を持って帰れるね」
「かっこよ!なんなん今のドラマか漫画!?かっこよすぎ!」
「なあサム帰ったら角名のスマホ立ててサーブ練してええよな?」
「実家の妹の影響かな、妹以外の女の子と話すの慣れてないから距離感変かも…ごめんね?」
「なあサム片腹痛いってこーいうときにつかうんやろなぁ!」
「妹さんおるんやぁ?角名くんと似て美人さんやろな!実家ってかっこいいなあ、名古屋やっけ?味噌煮込みうどん大好きー!」
「案内するし治と食べにおいでよ、ウチ泊まっていーよ」
「はっ倒したろかこいつ!!!」

横に双子がいるおかげで賑やかに気楽に話せて、学校ではあまり話すことがない角名くんの身の上話を聞かせてもらえて嬉しい。
治にシェアする分と自分が食べる分とをわけていると、左側から宮のスマホ画面が視界に割り込んでくる。大きい双子を持つお母さんって大変だろうなと失礼でおこがましいことを思う。

「撮った。これでええんやろ」
「食べかけは撮るもんちゃう。食事中にスマホ触りなや」
「なんっやねん!お前らもメシ食うならしゃべんなや!サムを見習え!こいつメシきたら急に静か!俺ずっと放置!」
「治、おいしい?いっぱい食べやあ」
「んー!」

治は目をぎゅっと閉じて、おいしいものを閉じ込めるみたいに口元を結ぶ。こんなに幸せそうでかわいい治の顔は、食べてるときにしか見られない。

「角名はクソ楽しそうやな」
「クソ楽しいよ侑のおかげで」
「性格クソか!」
「二人とも治のこと見て!めっちゃ幸せそうやで、こっちが幸せになるわー!」
「いらんわ見飽きとんねん」
「あ、治、お米ついてる」
「俺が取る!」
「自分で取るわキショツム触んなや」
「これのどこ見て幸せになるん!?」

宮と角名くんの雰囲気がおかしいけど、幸せそうにごはんを食べる治を見ているだけで私は幸せになれる気がする。
なんでもないことのように治を見ずにいられる宮と角名くんには人の心が無いのかと疑ってしまう。
治がおいしくごはんをいただく孤高のグルメ番組なんかがあれば、救われる人間は少なくない気がする。
こんな治のことが好きだなぁと思う。それならどうして私はこの双子に区別や優劣をつけたくないんだろう。宮のことを好きだと思うときはいつだろう。
私は私に対して、何を隠したいんだろう。
考えすぎてごはんの味がしなくなる前に、スプーンを進めることにする。

「沖縄ごはんもいいけど名古屋メシいいなあ食べたいなぁ治ー」
「俺は手羽先がええわーしるこサンドも好きやー」
「俺はアレがええ、ウナギの」
「宮って魚食べるん?」
「俺をなんやと思てんねん?」
「くさいとか骨めんどいとか言いそうやん。私が魚派やから言われるねん」
「気ィ合うやーん!トロがいっちゃんうまいから好きー!」
「うわっ…」
「人の好きな食いモンに対する反応かそれ」
「高級志向の男とは未来見えないよね」
「うっさいわチューペット野郎!誰目線やねん!」
「絶対半分やらねーからな」
「くれたことないやろ!」

食事をすすめていると、後ろの離れた席から、たぶん他の学校の女の子グループがきゃあきゃあ色めきたっている雰囲気を察する。
少しだけ後ろを気にすると、とっくに気がついていたのか、宮がいたずらっぽくフフンと笑う。私が後ろを気にしたことに気がつく視野も、素直にすごいと思う。
ただでさえ体格のいい三人、同じ顔の双子、シュッとしてかっこいい角名くん、よその地域ではウケがいいらしい関西弁。女の子に騒がれるには十分すぎる。双方にとって私が邪魔すぎる。

「すぐ食べて店出るわ」
「えー?なんでー?」
「やめて近寄らんといてわざとやろ」
「フッフ」

また人避けに私を使いたいのか、椅子の背もたれに手をかけてきて身体をかたむけてくる。どこにも触れられてはいないから、押し返すために触れることもはばかられる。宮の胸元の体温や感触を知りたくない。
宮と壁とテーブルと低い天井に挟まれて、頭と喉の奥がじりじりとする。何も意識しないふりをすることで精一杯になる。

「あの子らどっちに声かけたいんやと思う?」
「なんでハナから俺抜きやねん」
「私がおらんかったらあの子らと遊べてたでなあ?申し訳なさすぎる」
「よしよし、もう二人でここ出よか」
「は?」
「は?ってなんやねん」

迫ってこられたまま小声で話していると、あの人の彼女じゃん、と聞き捨てならない声が背後からする。
たぶん宮も聞こえているけど、無反応で、お互いそらしたら負けなように目を合わせる。考えの読めない笑顔のまま何も言ってくれなくて困る。
私は距離の近い宮の彼女だと勘違いされていて、治と角名くんはおそらくフリーだと思われている。なんにしろ私だけが邪魔だ。
それにいつまでたっても宮が近い。くらくらする。ここを離れたい。
私の負けでいいから目をそらした。

「なあ、治か角名くんと遊びたそうな子らおるで?行ったったら?」
「だれ?角名見える?よっぽどかわええ子ならともかく誘われ待ちならめんどいで」
「すごい!宮と同じ遺伝子や!」
「俺こんなクソ野郎ちゃうわ!」
「俺は好みじゃない。ナンパみたいなノリも無理、合わない」
「かっこいい!どこまで少女漫画なん角名くん…!」
「角名お前この子の好みわかってやっとるやろ!なまえちゃんもチョロすぎやろ!俺以外ポンコツしかおらんのかこのテーブル!銀呼べ!」
「でも宮のツッコミ目当てかもしらんな?」
「でもって何?ツッコミ目当てって何?」
「振り返ってみたら?」
「ほぉん。見せたるわ俺の実力を」

どうでもよさそうに目を細めて、振り返る瞬間に仮面をかぶるように愛想笑いをつくる。アンタもまあまあクソ野郎やないかい、と横目で見ながら心の中でツッコミをいれる。
宮兄弟がそっくりな動きで片手を上げて振ると、キャア!と高くて明るくてかわいらしい声が上がった。いいリアクションをもらえて双子は満足そうな顔をする。治はそれ以上のサービス精神はないらしく、もう食事を再開している。
宮は流れ作業のように「なあなあ地元の人?修学旅行ー?俺らもやで!どっから来たん?俺らは兵庫の稲荷崎っちゅーとこやねん。ここのタコライスむっちゃうまいなぁ!観光どこ行ってきたん?このへんで海見えるとこ知らへん?このあと俺らだけで行くねんむっちゃ楽しみやあ」と、まくしたてるように喋る。愛想がいいようで全力でこの場を掌握する姿におそろしくなって、角名くんと無言で苦笑いを交わした。
宮と話すことは楽しいけど、はたから見れば私も同じように、主導権を握りつぶされそうなくらい握られているのかもしれない。そう思うとこわくなる。おぞましさすらある。
先に店を出る女の子たちに頼まれても「写真は事務所通さなあかんねん」とか適当なことを言いながら、宮はちゃっかり「バレー部の兵庫代表でな、一月テレビでやっとるから応援してなぁ」とアピールしている。
テスト期間のために消されてしまった「 バレー好き?」と机に書かれた文字を思い出す。
この人は本当に、バレーボールを愛している。

「はー、やかましかった」

そしてまあまあのクソ野郎ではなかった、ただのクソ野郎だった。
でも、宮が話しているあいだ、私はずっと空気みたいな存在で食事に集中していられた。へたに紹介や説明をされることがなくてストレスがなかった。これは間違いなく私を理解したうえでの守るための行動だと思える。やめてほしい。

「二人にむかってクソ野郎ってどんな気持ちで言うてたん、こわいで」
「相手せえってなまえちゃんが言うたんやん」
「そうやっけ角名くん?」
「みょうじもう角名のことしか信じられへんようなってもーてるやん」
「治は女の子がキャーってなるの楽しんでるやろー?悪い男やなぁ?」
「そやでー、悪いで俺は」
「あざと!かわいっ!」
「俺よりみょうじの方がかわええよ」
「キャー!」
「なんなんこいつら何食ったん腹立つわー。角名爪やすり持ってへん?」
「あるわけがない」
「だれかアランくん持ってへん?ホームシックや」
「アランくんて持ち運び可能なん?」
「動画なら」
「見して」

角名くんから宮へスマホがわたされる。
バレー選手としての尾白先輩が好きで、アランくんという名前に反応したかったけど、バレー部どうしの身内の話に割って入りたくない。あのコートの中にいた人たちの日常も見てはいけない気がして、残り少ないごはんに集中する。
動画から尾白先輩のツッコミのような声と、動画を見て本当に弱ってしまった宮の、寂しそうに尾白先輩を呼ぶ声がとなりから聞こえてくる。
宮と角名くんはいつのまにか食事を終えていて、角名くんの分にも手をつけていた治と、シェアに手間取った私だけがまだ口をもぐもぐと動かしている。

「メシうまいー、食い終わりたないー」
「わかるー」
「どんな意気投合しとんねん」
「ツム知っとるか?メシを食い終わるとな、メシを食い終わってまうねん」
「その気持ちわかるで治ー!」
「酒飲んどんのかこいつら」

狭いテーブルの下で双子の小競り合いが始まる。喧嘩が始まるし、宮は動画を見ているし、今ならうまくここから抜け出せそう、と準備していた千円札を二枚テーブルに置く。無言も後味が悪いから、ちょっと席外すわぁ、と聞こえないかもしれないくらいの小声で言っておく。
逃げるように低く立ち上がろうとすると、宮はこちらを見ないまま椅子ごと後ろにさがって道をふさいだ。宮ほどのスポーツ選手の視野と動体視力をナメていた。
楽しいのにずっと付きまとっていた居心地の良くなさは、ここから逃げ出せない圧迫感だったことに気がついた。
この席順は、私が抜け出さないように最初から誘導されていたんだと正面の角名くんの目で察する。

「なんで代金置くの。荷物は見とくから置いていったら?」
「うっ角名くん…ゆるして?」
「侑、撒かれないようにちゃんと見てろよ」
「角名くーん!?」
「見とるわ。お前らが邪魔しに来たんやろが」
「俺はツムとみょうじ二人にするほうが心配や。みょうじおったら華あってええやんここおってや、ちんすこうまだある?」
「チャラブタはしゃべんな!」

治はまるで、お前が好きやとでも言い出しそうなノリで、私の持つ食べ物をねだる。
他にもいろんなごはんをいっぱいシェアしたいよなあ、私はわかるよその気持ち、治は食欲に貪欲でかわいいな。そんな言えないことを思いながら、うんうんと頷いてしまう。
すねるように見上げる治の姿は、犬のアンダルシアが耳を折って尻尾をたれ下げてそこに居るように見える。だれが治をこんな甘え上手のかわいい生き物に育てあげたんだろう。
いくらかわいくても、人間の男の子の治を犬のように撫でるわけにはいかないから、なんでもいいから何かふわふわのものを撫でたい。何かを撫でまわさないとこの衝動はおさまらない。お土産屋にぬいぐるみとかないかな、と空気をなでるようにしていると、隣の宮に見つかる。

「何やってん?」
「治をなでられへんから空気なでてた。無意識で」
「こわ」
「それはほんまに宮が正しい」

テーブルのこちら側の二人で話が逸れそうになりながらも、角名くんは切れ長の目をこちらにむけて、真剣な面持ちを続ける。角名くんに初めて向けられる感情が呆れということが、申し訳なくて情けない。
この人たちにはこの人たちだけで思い出をつくってほしい気持ちがあった。
その気持ちは捨てられないけど、こっそり抜け出そうとしたことが恥ずかしい。でもきっと、相談したところで、誰かは私と一緒に行動してくれようとすることが見えていた。それを甘んじて受け入れる心構えはまだできない。

「男の集団にみょうじさん一人だと居づらいだろ?侑が早く連れ出せよ。みょうじさんも知らない土地で一人で行動するのは危ないって自覚持って。うるさいこと言って悪いけど、さっきみたいに他所の学校も来てるしナンパとか心配だから」
「こいつ女の子相手やと丁寧で優しいな、妹おるって強いな」
「心配ありがたいです…ぜんぶ角名くんが正しいです…」
「こっちも角名の言うことは素直に聞くんやな、やっぱこういうタイプがええんやな」
「ほな俺とみょうじで回ったらええやん」

テーブルに伏せそうになっていた治が、いいことを思いついたように上体を起こす。お前は黙っとけ、と宮と角名くんの声が重なった。
私は、それや!と輝かせた目を治と合わせる。ずっとこの斜め同士で話が合っていて、やっぱり席順も組み合わせも最初から間違えていた気がする。

「私と治で食い倒れるのがぴったりやな!ソーキそば行く?」
「みょうじさん、俺と侑が同じ班になること考えて」
「あ、無しやな!」
「俺の押し付けあいやめろや!三人で奪い合えや俺を!」
「私は弱った宮を群れに帰したいだけやねんけど…」
「群れって何?野生動物か何かやと思てたん?」
「身の危険感じてたんやろ。ほな角名とみょうじでデートは?」
「黙ってろってお前は」

めずらしく角名くんの声が低くて口が悪い。治はケケケと声がしそうな、ちょっと悪い顔をしている。
私と角名くんがデートって、それは私にとっては悪ふざけでもなんでもなくデートすぎる。今は間に双子がいるからスムーズに話せてるけど、もし二人だけになったとき、こんな風に自然に会話をできる気がしない。
喉を鳴らして水を一口飲んだ宮が、音をたててコップを置く。これは、何かを言い出す仕草だなと思い三人で注目する。
誰が一番早く的確にツッコミを入れられるかの勝負が始まったようにも思える。

「アホサムやな。ここ会話もたんやろ。二人にした瞬間からスマホポチポチしだして倦怠期やで海なんか行ってみ?潮風だる、帰ろ、とか言いながら写真だけ撮って終わりやしそのくせ妹みたいでかわいいよとか言いながら手ェ握りだすんやでやめとけやめとけこんなやらしい男はなまえちゃんもツッコミおらんとポンコツやし角名には荷が重いですごいでこの人ハゲるでお前ら」
「息継ぎいつしてるん?」
「長いわ。ツムには聞いとらんし」
「潮風はだるいだろ」
「お前はツッコむとこそこ?」

宮は息をととのえて、また水を一口飲む。
だれがポンコツやと言いたいところではあるけど、宮の言う通り、角名くんみたいな物静かでまともな人に、私みたいな不注意で不用意な人間は背負わせられない。

「あのさあ…応援席でわかったんやけど、角名くんのこと本気で好きそうな子多いで。しょうもない理由で私が二人っきりになったらあかん人やと思う」
「ツムはええんや?」
「気持ち悪いこと言うけど角名くんやとちゃんとデートって感じやねん、緊張するしたぶん話せんし迷惑かけられへんし、私、角名くんにトイレ行きたいとか言われへん!」
「ちょお待てや!むっちゃ男として見とるやん!俺はなんなん!?」
「侑は甘えられる相手ってことじゃんね」

角名くんは優しく笑って、治はめちゃくちゃに笑って、宮は私の返事を待ってかたまっている。みんなのめずらしい様子ばかり見てる気がするけど、バレー部だけで居るときはこれが日常なのかもしれない。
割り込んで悪いことをしているなと目線だけを下に向けると、宮が立ち上がって「海見たいんやろ。行くで」と声をかけてくれた。
手をひくよりも有無を言わせない言葉がありがたい。
私にはそういうところがあって、宮にはこういうところがある。



ーーー



「お前にトイレ言えんのほんまおもろい」
「お前最悪、ほんっと最悪、ほぼ侑」
「ツムの反応おもろいんやもん。お前もツムで遊んどったやん」
「俺とみょうじさんを組み合わせようとするな」
「なんで?角名かっこええ言われとったやん。俺はみょうじの味方やねん」
「なんとも思ってねーから言えんだよ。治もみょうじさんのことかわいいって言えるだろ?」
「かわええと思わんの?」
「嫁って言われて焦ってたのかわいかったよ」
「言えるやん」
「本人には言えねーって、ちょっとでも女の子と思ってたら」
「角名のデートむっちゃ意識されとったやんええ感じやん。俺とは平気そうやったのに」
「あれを意識とは言わねーよあれはブロックだよ好きになる前から全員フラれてんだよお前は友達で俺は知り合いなの」
「お前らから見たら俺とみょうじって友達なん?」
「違うの?」
「距離取りよるやん。俺は友達でもなんでもええけど」
「お前でも距離感じるんだ」
「まあ。ほなデート行けたツムは?意識されてへんの?嫁みたいやったのに」
「みょうじさんはお前のそういうところに安心するんだろーね。男のシュミ心配だよどーせ侑だし」
「最高視聴率アレやな、ツムの我が物顔がすごかったな。あれ角名に見せつけとったよな。だってお前なんとも思ってないわけじゃないって丸出しやもん!」
「なんで楽しそうなんだよ最低かよ。好きとかではないからな?気さくで関西の子って感じなのにあの距離感あるとこが良かったんだよ、なんとも思ってなくはないし友達でもないけど恋愛でもねーの知らねーとこで幸せだったらいーの。いねーのそういう相手」
「お前ら全員そうやで。全員うまいメシ食うて幸せになったらええ」
「出たよ悪い男。もういいから銀捕まえに行こ。俺はもう何もツッコみたくない」
「匂う!銀はソーキそばにおる気ィする」
「匂ってろ……」
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