修学旅行の最終日、自由行動ともなると男女別の六人グループなんてものは崩れに崩れていた。
朝練で身体を動かした同じクラスの運動部でなんとなく固まって、なんとなくその場で離れたりしながら繁華街を歩き始める。
食べ歩きの通りなんか行こうものなら治と顔を合わせて治と一緒に居るはずの角名も合流してきっといつものバレー部の風景みたいになるに違いない。別にいいけど。
気になるあの子は男絡みを面倒がるから、きっと女子だけでキャッキャウフフとかわいらしくその辺でさとうきびでもかじっているに違いない。誰かに先を越されるかもなんて焦ることがなくて助かる。
できればこの旅行中に少しは会話がしたかったけど。
一日目は出発のときくらいしか話してなくて、二日目は治のおこぼれのような会話しかできてなくて。
三日目は、ホテルの大浴場近くで風呂上がりの姿なんて見てしまったらどうしよう、偶然装って目に焼き付けよう、と自販機近くで無駄にいろんな人間とどうでもいい話をしていたのに、どうでもいい人間が「スッピン見んといてやぁ」なんてどうでもいいことを言いながらうろうろと鬱陶しかっただけで、どうでもよくない会いたい子が現れることはなかった。
最終日の今日は「食べ歩きの余裕を残したいからこれで最後や」と言いながら朝食バイキングを四周した治を見てかわいらしく笑っている姿しか見ていない。治を見ていることが気に入らないけどあのアホくさい時間、身内と気になる子が朝から同じ空間で飯を食っていることが、なんとなくいい気分のする時間だった。
つーか、あれ、そこに居るのあの子の班の女たちやん、おい、男と一緒に歩いてないか?

「銀、俺抜けるわ」
「は!?ちゃんと帰る時間には戻ってこいよ!?」

まるで境界のない自分のグループを抜けて、男女グループになってるその一組に近付いてもあの子の姿は近くに見えない。良かったけどここに居ないならどこで誰と何をしてるんやろう。嫌にざわめいてくる。

「自分らなまえちゃんと同じ班やなかった?」
「別行動することなったんよ。他の組の子と回るわーって」
「え、みょうじってミヤアツの彼女やったん?一緒に回れるかもやでって俺サッカー部のやつに教えてもーたわ。悪い」
「あ?何してくれとんねんお前誰やねん。あの子どこ行くか言うてた?」
「シーサー見たいなーって言うてたような…」

腐るほどあるわ!クソボケ!
この大通りの道筋は二千メートルもない。ロード代わりにもならない。脚の筋をよくのばして、軽く走り始める。道行く限りにシーサーが見えてめまいがしそうになる。
なんとなく悔しいから否定しなかったけど、あの子は俺の彼女じゃない。結構思い切ってさりげなく聞いたのに連絡先も教えてもらえない程度の関係でしかない。
それに、治のことが好きなんじゃないかと思うときがいまだにある。少なくとも俺よりは治のことが好きなんだろうと思う。スタート地点からそうだったけど追いつけた手ごたえはまるでない。
二日目に近くにいたときも、雪塩ちんすこうとかいうぎりぎりの名前を恥ずかしげもなく発しながら治にだけわたして俺にはくれなかったし「宮は興味ないやろ」の一言だけやったし。確かに興味は薄いけど。俺もなまえちゃんからの何かが欲しかった。そんなことも言えないし、伝わらない程度の関係。
しらみ潰しに店内まで入ることをあとどのくらい続けたらいいんだろう。続けていれば合流できるのか。ろくに見たこともない私服姿で見つけられるのか。
そのうち帰る時間になって、俺だけ一人で興味もないシーサーの店を走り回って一日を過ごして「でも、思い出なんかいらんのやろ?」ってみんなに笑われれるんだろうか。最悪や。
俺、なんで走ってるんやっけ。会いたいからか。なんで会いたいんやっけ。よそ見をしないでほしいのに、俺がバレーを見ているように、あの子にもあの子の人生があるからそんなことは叶っていいわけがなくて、せめてどうにか手の届く近くにいてほしいから。
どこからでもわいてくる独占欲を、なぶることしかしないあの子にもっと上手に慰めてほしいから。

一人で走っていると、昨夜二人部屋で銀と話したことを思い出す。
テニス部の子といい感じに見える銀は「付き合うとか考えられん、今はバレーに集中したい」と言っていた。でも俺は、それは飯を抜いて睡眠を削ってバレーに費やしても強くはなれないのと同じじゃないかと思った。欠けているほうが支障がでる。バレーに支障は出ないかもしれないけど、バレーをしていないとき、今、となりにいてほしいし誰にも取られたくない気持ちはどうしたらいい。
「でも好きなんやろ?」と訊くと銀は枕に顔を埋めて何も言わなくなった。俺に言うのはもったいないし、言ってしまえばもう抑えられなくなるんだろうと思った。俺はその気持ちがとてもよくわかるから。
「侑の方こそどうやねん」とやっぱり反撃されて、修学旅行っぽい話でもしておこうかと「純粋に触りたくない?」と答えると、こういう話に積極的になれない銀は「不純や、寝とけ、北さん呼ぶぞ」とおそろしいことを言って話を切ろうとしてきた。
先に寝てほしくなかったから「ナニ考えたん?手ェ繋ぐのも不純なん?銀はどこからが不純と思う?ほぉらやっぱりそういうところ触りたいんやんかぁ」と一人でしゃべっているうちに、俺も寝てしまっていた。
そう、おかげさまで寝不足や。
目につくしょうもない店に手当たり次第に入っても、会いたい子の姿は見当たらない。このままだとシーサーでアレルギー反応を起こしそうになる。自分だけで見つけてみせたい以前に一秒でも早く捕まえたい。何をしても何もしなくても逃げていく人を、捕まえる以外にどう言い表せばいいのかわからない。
ポケットに入れていたスマホを手に取る。通話履歴の一番上を押すとコール時間めいっぱい待たせてようやく相手は不機嫌そうに応答する。

『なんやねん修学旅行中にィ』
「はよ出ろやなまえちゃん見んかった!?」
『みょうじ?見てへんわ。迷子か?』
「見かけたらすぐ俺に言うか捕まえとって」
『捕まえるてなんやねん。角名が見たって』
「どこで!?いつ」
『十分くらい前。通りの名前書いたシーサー見てたって』
「なんでなん!?シーサーってそんな見たい!?もう四日目やで見飽きる頃やろ!あっ切るなや!」

遠くには居ないはず。まだ駅周りか?と道を引き返そうとするとちょうど、シーサーの館と書かれたあやしい看板が目にとまる。なんか好きそう、と直感で足を踏み入れるとすぐにいろいろなシーサーが並ぶ棚があって、思った通りに捜していた子は球蹴り野郎と並んでそこに居た。二人っきりで。あ、炭酸飲みながら観るのが好きな屋外スポーツってサッカーもあるのか、と今はどうでもいい話がここで繋がる。知ったこっちゃない。俺もウイイレできるし、うまいし。なんか、この男の話聞いてないっぽいし。ええわ、割り込んだろ。

「そこの二人一緒に回っとるん?」
「ん?宮やん!地元のヤカラかと思った。あれー、サッカー部の…どしたん珍しい二人やな!」
「俺は今来たとこやけどそっちの人はさっきから話しかけてたみたいやで」
「え!?ごめんめっちゃシーサー見て考えごとしてた!」
「俺の声には気付いてくれたんやぁ?うれシーサーやん!」
「それ披露しにきたん?暇なん?」
「ちゃうわ!」

俺>>>シーサー>サッカー部くん。はたから見ればしょうもないけど、俺にとってはどでかい意味を持つ勢力図が完成した。そういうことや、と手で追い払うとサッカー部くんは当て馬臭ただよわせた背中で店から出ていく。誕生日にまるで眼中になかった俺もあんな風だったかもしれない。おい今当て馬って言うたの誰や。俺か。そうか。
あの時から比べると本当に、いろいろと近くなったと思うのは勘違いじゃないと思いたい。この子は、自分に興味を持たないと認定した相手にだけ近付くことを許しているような気がしないでもないけど。
かっこつけてむりやり整えていた息を、大きく吐いて吸う。脳に酸素を回すと少し落ち着いて、二人きりになれたことを実感する。

「宮、しんどいん?そんな息切れることある?」
「捜しとったんじゃい。連絡先も教えてもらえんから」
「え、私?」
「班の子らとおらんかったから」
「あー。迷子になったら見つけてって言うたっけ、覚えててくれたん?やさしいなぁ」
「迷子ちゃうやろ。さっきの奴に先越されたなくて必死やってん」
「宮の班も女子混じってめんどい感じ!?」
「なまえちゃん、俺つかれた、今日はやさしくして」

こういうとき、本当に伝わっていないのか、迷惑がられてはぐらかされているのかわからない。
しゃがみこむとぴったりとしたデニムを履いた脚が目に入ってしまう。見慣れた制服のスカートとは違って脚のラインを意識させられる。ふわっとした羽織りの下も制服とは違ってわかりやすい膨らみが見える。誰の前でなんて格好をしてるんやと言いたくなる。よくある誰でも着るような格好なのに。修学旅行だからって着飾りすぎない旅慣れしてそうなラフなところもかっこいいし、そういうところが同じく頓着のない治と合いそうで腹も立つ。
見ていられなくて、正確には胸元に目がいくところを見られたくなくて、落ち込んでるように頭を下げる。むちゃくちゃに振り回してくるけど相手に弱られることにちょっとだけ弱い甘い子ってことを知っている。本当に、少しやさしくされたい気分だった。

「元気ないん?なんか食べに行く?」
「連絡先」

少し見上げて顔を伺うと、一瞬合ったかわいい目が揺らいでそらされる。やっぱり教えてくれないのか。せめてちゃんとした理由で断られるならまだいいけど、また聞き流されるならいよいよ泣いてしまうかもしれない。これはもう、真下を向くとこぼれてしまうかもしれない。

「…疎遠なったら寂しいやん」
「そうならんためや」

本音すぎて、お互いにひとりごとみたいだった。取り繕いのない心の声が漏れてようやく直接届いたみたいだ。
疎遠になるくらいならって理由でお断りをくらってるのか。そうなりたくないこっちの気持ちはお構いなしか。あんまりや。それがもう寂しいわ。怒りたいのに徒労感に負けそうになる。
顔を上げられないでいると、ゼロハチゼロ、と数字が聞こえてきて考えるよりも早くスマホを手に取ってキーを押していく。

「まてまてまて早いて。…合ってる!?」
「うわーかかってきた」
「登録しといてや、誰?とか言わんとってな」
「みや、あつ、む!できた」
「電話してええの?こっちはいつでもええよ」
「緊急時なら…」
「サムの堅あげおいも踏んでもーたときとか?」
「遺言でものこすん?」
「そのへん置いてるサムが悪ない?」
「そういや朝のサムちゃん見た?バイキング」

見たっつーか近いとこおったやろがい。元気が出ると怒りがわいてきて、勢いよく立ち上がり見下ろすと、何?と言いたそうなかわいらしい顔の下にある胸がやっぱり気になって目をそらしてしまった。制服ってどんだけ着痩せするんや。腕を組むような仕草でよけいに強調されてる気がする、俺以外の前では無自覚にそういうことをしないでほしい。指摘すると俺の株が地面を突き抜けていくことが目に見えていてどうしようもない。今は俺が紳士になるしかない。いや、俺はいつでも紳士や。胸がなんや。俺だって胸くらいある。人間だれにでもある。みんな同じ。もう大丈夫や。

「大丈夫?サムちゃん呼ぶ?」
「サムの胸なんかいらん!」
「何の話してるん?頭いける?バレー不足?」
「ほんまバレーしたらなおるかも…」
「サムちゃん呼ぼか」
「呼ばん!サムとは連絡先交換してたん!?」
「宮ので呼べばいいかなって」

シーサーに囲まれているのもなんかもう嫌になっていた。ここで話し込むのもおかしいし、羽織りの裾をつまんでほこりっぽいシーサーの館から外に連れ出す。服の裾は触ってもいいのか、とひとつの境界線をこえる。
地元とは違う十一月末とは思えないなまぬるい空気があたる。秋というより春がきたみたいで、私服で、自然光の下にいるだけのことで浮かれてしまいそうになる。学校のときよりきらきらの目元と色のついた唇が自分のためじゃないとわかってても、特別感がある。

「そのサムちゃんっていうのなんなん最近」
「宮がサムサム言うからうつるんやろ。宮だけやん、サムって呼ぶの」
「…ほだされへんで!ほな俺もツムくんでええやんか」
「治はサムサム言わんで。え?今どっちの話?」
「はーあ。歩こか」
「水族館行きたかったなぁ遠いなぁー」
「二人でもう一泊してくー?」
「ははっ、うそや。帰ってバレーしたいんやろー?」
「したいけど」

したい。それはもう、どっちもしたい。バレーをしたいはその通りやねんけど、悪い顔してまた線をひかれたな。こっちの気持ちを無いものにして、はっきりと断らないところがタチが悪い。
そういえば一緒に居るところを見られたくないとか、目立ちたくないとか、二人がいいとか、そういう話はどうなったんだろう。今って人目につかない二人きりに含まれるのか。
俺はいつ誰に見られても構わないし、むしろ全員よく見て覚えておけと思ってるけど、この子が気にして俺に近寄ってこなくなるようなことに繋がるなら一応は譲歩はしたい。
周りを歩く人間がこの地域の人間なのか、さして顔を覚えてない同学年なのか、見ただけで判別は難しかった。なんとなく学生ぽくて関西弁が聞こえてくれば同じ学校の誰かかなって程度にはわかる。
普通のことみたいに隣を歩いてくれるのは嬉しいけど、今どういう気持ちで並んで歩いているのかはいまいち掴めない。この子もけっこう他人のことが眼中にないから誰が誰だかわかっていないのか。
どこまでもなまぬるい空気に包まれて、それを吸い込む。勘違いかもしれないけど今なら毛先くらいなら触っても何も思われない気がする。触れないけど。また近寄るなとか教室出禁とか言われたらたまったもんじゃない。

「なまえちゃんなんで一人になったん」
「彼氏おる子は彼氏と回る方がいいやろ?こっち選ぼうとしてくれてたけど、溝できると思うし。班の他の子らは合流した男らと仲いいけど私は仲良くするつもりないし、それ顔に出たらあかんやん?邪魔やん?」
「ほかのクラスの子と回るっていうのは嘘やったんやな?俺のこと呼んだらよかったのに」
「前のクラスの子も中学一緒の子も今のグループあるし、宮は選択肢になかったけど…銀島くんとかおるやん」
「はぁ?なんでそないに自分のことそっちのけにするん?」
「逆やろ。一人なら自分のことだけ考えてられるやん。ゆっくり海だけ見たかったし、一人のほうが自由や」
「ほんま自己完結するとこあるよな。選択肢にない俺はなまえちゃんに誘われたら喜ぶけど?」
「ありがとう、今後の参考にさせてもらうー」

相手にされてないな。話を聞いてない、聞こうとしてないときの返事。それなら聞かせてやるまでやけど。

「俺が来たの邪魔やった?」
「……」

文句やツッコミならすぐに返される返事がこないということは、そういうこと。わかってる。けど言わせたい。思ったことを口から出さないようにこらえてるところがかわいい。

「邪魔なら戻ろか」
「邪魔じゃない」
「はっきり言われたいなー。俺一人で修学旅行終わるとこやったんやで」
「私は一人でも良かったんやけど!?」
「むちゃくちゃ走ったし」
「なんで?」
「二人で回るためやって言うてなかった?」

よく聞かせるために頭を掴みそうになる手を握りしめて言うと、面食らった顔がこっちを向く。本当に言ってなかったっけ。言わないとわからないような流れだったっけ。あと何をどれくらいがんばれば俺のこの気持ちは報われるんやろう。

「…たぶん初耳。雪塩ちんすこうの恨みじゃないんや?」
「それは普通に恨んでる」
「だって絶対興味ないやん、もうアスリートみたいなもんやろ?なんかすごい合宿あるんやろ?」
「目の前で治だけなんか貰ってんのイヤや」
「隠れてあげたらいいん?」
「もっとイヤ。煽らんといて」

言葉の意味を考えてるこの顔が好き。いまいち伝わってる手ごたえはしないけど、俺が振り回されてるように、この子も俺で困ってほしい。困りながらそうやってもっと俺を受け入れてほしい。

「あ、シーサー!」
「なんでそんなシーサー好きなん、なんなん、何があったん」
「シーサーって狛犬みたいなもんやろ?二体でひとつって宮と治みたいやん」
「宮と治ってもうただの治やん」
「あっははは!ただの治ではないやろ!やめておもろい!」
「おもろないわ」
「何食べたらそんなおもろいこと言えるん?」
「ツボどーなっとんねん」
「この修学旅行で一番おもろい」
「そんな散々な旅行やったん?」
「めっちゃ楽しいけど?」

一生笑ってやがる。思いもよらない一番をもらえて嬉しいけど。かわいいけど。
こんなに楽しそうに笑うのに、どうしてか手に入らないような、居なくなってしまいそうな予感をいつもさせる。このまま二人だけで一緒に居たいとか、そんな甘ったるいことを言った途端に逃げ出されてあとかたもなく姿を消されそうな予感があって、今にも出かかってる言葉がずっと喉を圧迫してる。

「ほんで?シーサーが俺らみたいで好きやーって話?」
「それがさぁ昨日寝る前に宮ンズどっちが好きなんって訊かれてさー」
「俺やろ。え?恋バナ?俺やのに俺が聞いてええのそれ!?」
「どっちがどっちとか無いやろって答えたんやけどさー」
「あるやろ!俺が俺でサムがサムや!区別ついてなかったん!?」
「なんで比べたり選びたがるねんってシーサー見ながら考えてた。選ぶもんとちゃうやんなぁ?」
「はーん、俺らはシーサーとちゃうけどな」

治に負けることは嫌だけど負けないように生きてきたから今がある。その今を悪くないと思ってる。
比べていいのに。選べばいいのに。そもそも治にその気は無いらしいけど、俺が勝ってみせるのに。
いっそもう、と口を開きかけると少し離れたところに治と角名たちが見えて目が合った。おい早くどっか行けボケ、散れ、空気を読め、絶を使え。
まさかなまえちゃんも気付いてるだろうかと隣を見るとその目は別のどこかをよく見てる。

「見てあの柄シャツ、宮と治に似合いそうやな」
「もう初日に買ってもーたわ。なまえちゃん白買ったら?トリオやる?」
「絶対にいらんなぁ」
「買った人ここにおるんやけど?」

また話を流されてるし、宮と治ネタはまってもうてるし。
治に勝っていなければ負けてもないことを確認できただけで今日のところは満足しないといけないのか。

「おなかすいたな。宮はどっか行きたい?」
「んー」

そこに見えてるタコライスを食べたいけど、俺が食べたいってことは治もそこに向かってる気がする。このままだとかち合って合流させられてしまう気がする。

「なんも無いんやったらそこのタコライス食べに行かん?」

ほらやっぱりそうなるんかい。俺たちってトリオやないかい。なんとなくそうかなって思ってたけど。

「あ、治たちおるやん。やっぱ双子ってすごいな。え、めっちゃ知らんふりされた。角名くん!いま目ェ合ったやんなぁ!そこの背の高いかっこいいお兄さーん!?」
「カツアゲみたいになってんで。何、角名みたいなんが好きなん?」
「すらっとして標準語で静かでかっこいいやん」
「俺も背ェ高い方やし関西弁やし黙ってたらまだマシって言われるけど?」
「角名くんはそういうこと言わんやろ?そこやで」
「俺も言いたくて言ってるんちゃうねん、血が騒いでまうねん」
「宮はそれでいいやん。楽しい。…今日来てくれてありがとう」
「死ぬん!?」
「死なんわ!」

この子を好きでいることをやめたくなることはあるけど本気でやめたいとは思わなかった。やめかたがわからないし、やめられないこともわかってた。
本当は治でも誰でもいてくれたら助かると思ってるところもあった。二人だけになるともう今にも口も手もすべらせそうでおそろしかった。
好きだとか、思うことすらごまかしてきたのに。

「もし治らと合流しても海が見えるとこは二人で行こな。水族館も、いつか二人で行こなぁ」

返事がない。否定もしてくれない。
冷たくてあたたかくてなまぬるいこの子を、今日も好きなままでいさせられている。


−−−


「やかましい関西人おるなー」
「ここ稲荷崎の庭だっけ」
「どこでも地元みたいに身軽やなあいつら」
「地元カップルかと思うよね」
「付き合ったんかな?」
「付き合ったら侑は絶対すぐ言うだろ」
「みょうじは絶対言いたくないと思う」
「あー。距離感バカそうな侑がベタベタしてないからあれは告白もまだじゃね。あ、侑に気付かれた」
「あいつ顔やば。おっかな。シーサーやん。邪魔したら手足もがれそう」
「ちょっと割り込んでみたら?俺のみょうじはわたさんねんーって。視聴率とれるよ」
「角名が行けや」
「俺だと洒落にならない」
「あー、角名ってそおやったん?」
「なんか距離感いいなって思ってただけ。治のことが好きなんだと思ってたし。それがアレ」
「珍しく珍しいことをよぉ喋るやん」
「修学旅行ってこういうもんだろ」
「せやなぁ、高校生って感じやなぁ」
「だから治が邪魔しに行けよ絶対おもしろいから」
「タコライスでええよ」
「やっす」
「あれほんまに邪魔せん方がええんかな?あいつみょうじのこと誘拐してへんよな?捕まえるとか言うてたでさっき」
「普通に楽しそうだよ。あ、みょうじさんに気付かれたやば」
「ははっ、かっこええ言われとるやん良かったな。奪えば?」
「うるさい黙れ。そういうのじゃねーって」
「ツムの奴はよ散れゆーたやろがって顔しとるわ。おもろ。腹も減ったし、やるか」
「マジでやるんだ」
「こらぁツム!俺のみょうじの雪塩ちんすこうはわたさへんで!」
「そっちかーい」
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