「二口が女連れで来てた。本人はいとこつってたけど」
「あいついとこいたのか?」
「ああ愛子ちゃん来てるんだ」
「茂庭知ってたのかよ!?」


自転車で来た俺とは別に電車で来た待ち人二人と顔を合わせて早々に、ついさっき見たおもしろい後輩の話をしてやる。
俺がいきさつを話すと茂庭のほうも二人に登校日に会っていたとかで、話を聞き終えた鎌先はいきり立つようにスマホを取り出した。二口に何か言うつもりだろうってことが火を見るより明らかなところがこいつらしい。ラインより電話のほうが早いんじゃないかと思うが二口となかよく電話するという選択肢がハナから無いのか気が逸ってることがわかる。


「既読ついたぞ!」
「おお良かったな」
「こいつ無視してやがる!」
「付き合いたてのカップルかよ」
「やめろ気持ちわりい」
「笹谷煽るのやめて!鎌ちも穏便に!」


歩きながらに俺はイカ焼きを、茂庭はキャラもののベビーカステラを買って食べているとスマホをいじっていた鎌先が「お前らいつのまに!?ちょっと待ってろ」と走って道を戻りたこ焼きを買ってきた。ひとつ貰おうとすると鎌先が「あっつ!水!」と顔をタコみたいにしだしたのでそっとのばしていた手を引っ込めて、冷めてから貰うことにした。茂庭に茶をもらった鎌先は「ちくしょーお前ら、二口の野郎ぜったい見つけてやろーぜ」と変に意気込んでいるけど身長が平均をこえてる見慣れた後輩と浴衣姿のかわいい女の子の組み合わせなんて目に入れないことのほうが難しい。


「モニワさん!」


声のした方に三人で目をやると、涼しい色の浴衣に緑の水風船、夏をまとった二口のいとこが茂庭を指さしている。見つける前に見つけられてるじゃねーか。誰よりも先に鎌先が足を進めて行って、五人で夜店が並ぶ通りから外れる。まだ空が暗くなりきってない中で明るすぎる電灯の下、二口は鎌先の干渉がおもしろいのか、いつものからかうときの笑顔をしている。いつもと言ってもこの顔を見るのはちょっと久しぶりで、毎日毎日飽きねえなとこっちがうんざりしていたこいつらのやり取りが始まることにいさめる係の茂庭には悪いけど楽しみだと思ってしまった。


「二口てめー先輩のライン無視しやがって」
「あー俺先輩らと違って女の子と来てたんでー」
「いとこだろ?お前こそ彼女いねーくせに!」
「モニワさんこんばんは!ササヤさんさっきは堅治がすみませんでした、えっと…」
「そいつは靖志だよ」
「ヤスシさん、堅治がいつもお世話になってます!」
「あー、ども、鎌先でいいっすよ」
「うっわ照れてやんの、女日照りつづくと後輩のいとこまでそういう目で見るんすねー?」
「うるせーよ女に慣れてねえだけだ!つーかお前ケンジって呼ばれることあるんだな、ケンジ」
「そりゃ身内っすからね、なんかおかしいことありますか?やすしだって芸人みたいな名前のくせに」
「おいそれは全国のやすしに謝れ」
「鎌先さん以外のやすしすみませんでしたっ!」
「いい笑顔してんじゃねーよ!」


元気か、元気です、と形式ばった挨拶をする代わりにくだらない言い合いをする二人は楽しそうだから慌てる茂庭の肩を引いて、しばらく止めないでおいてやろうと二口のいとこと目を合わせて笑い合う。
悪く言えば単細胞で、良く言えば懐が広い鎌先になら何を言っても見捨てられないという二口のへたくそな甘えははたから見ていてよくわかる。俺もおっさんくさいだの言われる程度には甘えられてるというかナメられてるけど。


「浴衣似合うね。ベビーカステラ食べる?」
「いただきます!堅治には馬子にも衣装って言われました」
「いつも素直すぎるくせにそこは素直にほめないのか…」
「でもあの堅治がそんなむずかしい言葉覚えたんだなってちょっと感動しちゃって」
「愛子ちゃんお母さんみたいだな」


茂庭の朗らかさは二口のいとこにも通用しているようで、一見ガラの悪い鎌先に気をつかっていた彼女もやわらかく笑う。ふだんお母さんみたいなキャラした茂庭でも女の子と居るとしっかりと男に見えるものだ。普通校に居れば案外モテるのはこの茂庭なんだろうと思う。
鎌先と言い合いながらちらちらこっちを気にする二口にはたぶん俺しか気付いていない。自分のいとこが先輩とうまくやれてるか心配なのか、俺たちが自分の大事なものをとって食うような悪い先輩に見えてるのか。問題ばかり生んで茂庭たち保護者の反応を楽しんでたようなあの二口がいちいち過保護な反応を見せることがむずがゆい。


「あー、こわい先輩でごめんね?」
「いえ、堅治楽しそうです!」
「こいつらいつもこーなんだよ…」
「同じレベルの先輩いて、かわいがってもらってて安心しました!」
「あ、さすが二口のいとこだ」
「だぁから、俺はもーちょい考えて発言してますって!」
「あ?考えた上でそれなら余計たち悪いだろーが!」
「はい鎌先さんには特に考えて言葉選んでますよ」
「うれしくねーよ!おい射的で決着つけるか!?」
「こんだけ構ったんだから充分っしょ?先輩と違って女の子つれてるんでもうちょい気きかしてくれません?」
「お前な!って人のたこ焼き食ってんじゃねーよ!」


さすがに宥めに入った茂庭に鎌先を任せておいて二口と目を合わせた。たこ焼きを頬張りながら俺を見下ろす後輩はあきらかにウゲッと表情を変える。やっぱり俺が出会い頭に見たものは二口が見られたくない場面だったんだろうなと少しの罪悪感を持ちながら、自分の優位を確信した。


「かわいい愛子ちゃん独り占めする気か?」
「笹谷さん顔がセクハラ」
「たいそー大事ないとこなんだな、ケンジ」
「もーやだこの親戚のおっさんみたいな人!」
「こんなに可愛がってるのにか」


ふん、と口を尖らせて、それじゃあと頭をさげて二口はいとこの腕を引いて出店がある通りに戻っていった。からころばしゃばしゃと下駄と水風船の音を引き連れる後ろ姿は夏を連れてるように見える。
俺がおもしろいのは二口の反応だけど、二口にしてみれば大事ないとこを好奇な目で見られてる気持ちなんだろう。たしかに二人の関係が気にならないと言うと嘘になる。


「なかよしのいとこだなー」
「あーゆーのなんつーんだっけ、シスコンじゃねーから…イトコン?」
「俺お前らのそーゆーとこ好きだわ」


鈍いというか見たまま素直に受け取るというか、どう見たってただのいとこの枠組みなんか越えてるだろう。
手、繋いでたしな。
かわいい後輩のために自分だけが見た光景は黙っておく。


「あー就活より誰が一番に彼女できるかが心配だわ」
「こら、競うことじゃないだろ!」
「とか言ってる茂庭みたいな奴が一番にできるんだよなー」
「それ言われてもう三年目だって!」
「愛子ちゃんも茂庭に一番なついてるっぽいしな」
「それはこないだ会ったからだろー!」
「いやいや茂庭サン、俺たちにモテテク教えてくださいよー」
「かわりにいいプロテイン教えるからよー!」


一年の夏も二年の夏も、夏だけじゃなく春秋冬も、こんなやりとりをしていたことを思い出す。
こいつらの顔をこんなに長く見ない夏は高校生活初めてのことで、でもこれからはこれが当たり前になるし一緒に祭なんてことも無くなっていくんだと思う。むなしい男三人集まって夏祭りなんてそもそもこれで最後にしたいものだ。


「来年は俺たちも女連れで来てやろーぜ!」
「いや俺は女できたら二口みたいに二人で来るわ」
「あ!?」
「茂庭もそーだとよ」
「おいマジか茂庭!」


来年の二口と愛子ちゃんは、俺の前でも堂々と手を繋げるようになってるだろうか。初々しい二人を思い出してにやけそうになる俺は本当におっさんくさいと言われても仕方がない。それこそ親戚のおっさんばりにふたりの進展を応援してやりたいけど、もう約束されたも同然なような未来に今更おっさんの出る幕も無いわな、と隙だらけの鎌先のたこ焼きの最後のひとつをいただいた。まずくはないけど冷めすぎてしまった味を噛み締めて、来年は、もう少し暖かいうちに狙って食ってやろうと思った。


20140814

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