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『いらっしゃいませーあっ荒北さんだ……』

「ていバァは?」

『今裏に…呼んでくるんで少々お待ちください』



初めて会ったときから徐々に気付いたこと
荒北さんは見た目に反して真面目で、よくうちの本屋に参考書やら自転車雑誌を買いに来るということ
そのたびに少し話をしたりで顔見知りこら知り合いになった気がする



『ていさん荒北さんが来てますよ』

「あらやだ!もうこんな時間だったのね
おんなのこちゃんばかり働かせてごめんなさいね。今から少しでも休憩をとってね」

『そんなことないですよ。でも、お言葉に甘えて休憩頂きますね』



いいタイミングで休憩を貰えることができたので荒北さんのロードを観察することに
いつもは仕事の合間合間にちょろっと見るだけなのでこんなにじっくり見るのは久しぶりである



『ビアンキちゃん君は相変わらず綺麗な色をしているね
お手入れもしっかりしてあって毎日乗ってもらえて君は幸福者だね』

「自転車に話かけるとか変な奴」

『そうですか?話しかけたくなるくらい素敵だって事なんで喜んでください』

「なんで喜ばなきゃなんねーんだ」

『褒められたら喜ぶでしょ』

「あぁハイハイ。ありがとネ」

『もうちょっとだけビアンキちゃん見ててもいいですか?』

「勝手にすればァ?」

『じゃあ勝手にします』



話を止めてもう一度ビアンキちゃんに目を向ける。
たくさん乗って転けてきたであろう傷がところどころにある。
だが、それが原因でボロボロに見えるなんてことはなく、寧ろ手入れが行き届いていて大切に扱われているのが見ているだけで伝わってくる



『やっぱり君は幸福者だ…』



そう言いながらつい手が出てしまいビアンキちゃんを撫でてしまった
勝手にすればと言われたものの触ってもいいとは言われていないので怒られるかなと後ろで見ている荒北さんを振り返るが怒ることなくただジーと此方を見ていた



『えっと………そんなに見られると気まずいのですが…』

「なぁ、んでそんなにロード好きなのにロードに乗らねぇんだ?」

『乗らない理由?
実は私…昔は乗ってたんですよ。
でもね、ある日落車をしてしまって私の足はもう……』

「わりぃ……」

『謝らないでください。そんな設定があったら美味しいなぁと思っただけですから』

「ってハァ!?」

『そんなお涙ちょうだいの漫画みたいなことうまい具合になかなかないですよ』

「お前…………」

『ふふふごめんなさい
本当の理由は単に大切に出来ないからでしょうか』

「ア"ァまた訳のわかんネェ理由だな」

『そうですか?本当に単純ですよ
ロードってお手入れするのが基本じゃないですか。それに乗らなきゃ飾ってても意味をなさないでしょ?
私すっごく熱しやすく冷めやすいタイプなんです。たぶん。
手に入れるまでは欲しい欲しいってなってそれに夢中になるんですけど手に入ったとたん【あぁこんなものなのか】って扱いが雑になっちゃうと思うんです
そんな風にロードを扱うのはロードに対して失礼だし、かわいそうで…
そうなるかも知れないし、ならないかも知れない
なったら嫌だからロードは買わないし乗らないんです』

「それ単純かァ?わっかんねぇ…そこまでわかってんだったらロードを雑に扱いたくねぇよう努力したらいいだけだろ。根性だせ根性」

『んー無理ですね根性なしなので
私は見る専門でいいんです』

「フーン…まぁ今後も見せてやらねぇこともねえ」

『荒北さんは優しいですね』

「っせ!褒めんな!」



ロードでまた一つ荒北さん知る










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「あっ荒北さんお帰りなさい!部活終わっちゃいますよ」
「ちゃんと外出届け出してから行ったから大丈夫だヨ」
「えぇつまんない。たまには福富さんに怒られたら面白いのに」
「オイコラ真波。本音がだだ漏れだぞ」
「あっカタツムリ発見!それじゃ僕は山登ってきますね」
「会話が成り立たねェ…今年の一年は不思議チャンばっかりかよ」


H26.08.25


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