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-記憶行き-



セルがきてから、この部屋には色んな人が出入りするようになった。主に家の住人とか使用人。たまに、お友達。

窓から見える庭の一部では、靴を履いて歩く練習をしている。たまに、こちらを見上げていつもの笑顔を見せてくれる。


春には、さくらの花びらを拾ってきて
夏には、庭に咲いたひまわりを。
秋には落ち葉を拾ってきて
冬には小さな雪だるまを部屋まで持ってきてくれた。
そうやって私は、外の世界に触れた。

そのかわり、
風邪で寝込んだ時は、私が絵本を読んであげて。
誰かと喧嘩して泣いているときは、黙って側にいた。


そうして何度も四季を繰り返して、彼の時は進んでいった。ひとり、置いていかれてしまったような。何故だか悲しい気持ちになった。私の時は、もうずっと昔から止まったままなのに、今だけそんな風に思ってしまうのは変だと自分に言い聞かせた。
セルが居ない間、この部屋の前で家の住人の話し声が聞こえた。もう、この部屋はセルには相応しくないから、別の部屋を用意しようという内容だった。




初めて出会ったときは、私より小さかったのに、今では立派な大人になっている。相変わらず、靴を履いて歩くのは苦手みたいだけど。


「新しい部屋が用意されたんだって?よかったね」


強がって、私がそう言うとセルは笑ってはくれなかった。


「寂しくなるね、僕の部屋にイソラはついてこれないの?」

「それは無理だよ」


そっかぁ、としょんぼりする。彼には、沢山の人間が周りにいるのに。
本棚に座る私の目の前にやってきて、右手を差し出す。その手は、空を切って私をすり抜ける。


「…大きくなったら、触れると思ったんだけどなぁ」

そう言って、泣きそうな顔で笑う。こんな顔、初めて。もう、私がどんな存在であるか理解している筈なのに、幼い頃の小さな夢を抱きつづけていたなんて。


「私はおばけだもん」


そうだったね、と彼は呟いた。悲しそうな顔。そんな顔をさせたい訳じゃないのに。


「この部屋に来れば、会える?」


「どうかな?」


ふざけて笑うと、彼もつられて笑ってくれた。きっともう、会うことはないと思うけれど。





「またね、」


「うん、またね。バイバイ」



さようなら、
あの時「またね」と告げたこと。





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無理矢理終わらせるという、