一週間ほど家を空けていた息子が帰ってきたと思えば、同僚と称する二人の男を連れてきた。香住は息子が副業を始めてから幾度目かもつかぬ溜息を漏らし、そして、 「何度言ったら分かるのですか、香衣!!あいどるなんてものは辞めてしまいなさいとあれほど言ったでしょう!!何ですかその方達は!!」 「いやだから同僚。母さんテレビ見てないの?」 「民放局の番組など見ません!!」 しかし息子は母に構うことなく同僚に家に上がるように促す。香住は歯噛みしながら着物を翻し、「全く今日は、荊華院の娘も来ているし最悪な一日です」と吐き捨ててその場を立ち去ろうとした。 「母さん」 その時、息子の声がした。香住が振り返ろうとした瞬間、香住の頬を風が撫ぜた。 「ちょ、枯羽、香衣!」 爛々と輝く金色の目の青年が灰色の髪の青年と息子が駆け出そうとしてるのを必死に止めていた。そして灰色の髪の…今しがた話題となった荊華院の娘とどこかしら似た面影がある青年は忌々しげに眉間に皺を寄せて吼える。 「てめぇ薔子こんなとこで何やってんだ帰れ!!」 「は?こんなとことは何ですか?!由緒正しき我が匂坂家の屋敷ですよ!!」 声を荒らげながらまさかこの青年は最近公になった荊華院の分家筋の人間ではないだろうかと思っていると、今度は息子が声高々と叫ぶ。 「来てくれたんだね薔子!!よしやっぱヘヴンとルスト帰れ」 「待てカエ!今日は明日のロケの打ち合わせだろ!」 「ああああもうお黙りなさい餓鬼共!!!」 ここに香住の理想郷はないようだ。 [ back to top ] |