「おかえり、天国」 家と違うことといえば、血の繋がりのない連中がたくさんいることと、その連中は時として…今だけかもしれないけど…俺を不快にさせること。 俺を今こうして迎えてくれた、ひかり。こいつのことが、今はとてつもなく気に食わない。 「……天国?」 「ただいま」 我ながらとてつもなく素っ気なかったけど、悪気はない。ひかりの眉毛がぴくりと動いたのもちゃんと見た。…ムカつく。 「……なんだよ、なんかあんのかよ」 ムカつくから、それをそのままぶつけてやる。そしたら、ひかりは容易く乗ってきた。 「はぁ?」 単純すぎて、面白い。思わず笑ってしまう。それが気に食わなかったようで、ひかりの顔が歪む。あー、酷い顔。 「お前いまサイコーに怖い顔してる。そんなんじゃハトリを泣かせるぜ?」 ますます歪むひかりの顔。あーあ、結構きれいな顔立ちなのに、醜いったらありゃしない。けど、ひかりの表情がすっと抜けた。びっくりするくらい、一瞬で。 「……オレに何の恨みがあるんだよ」 「………は?」 「ハトリのことか?」 ハトリ。俺の力を望まず、いま俺の目の前にいるひかりの手を取った、アイドルの卵。 「…ハトリのことは悪かったよ。…でも、あいつはお前に、いや、周りのみんなに幸せにしてもらうことを望んでなかった。それは流石のお前も分かってるだろ?」 「…………」 「あいつのことはオレに任せてくれ」 やめろ。そんな、そんなまっすぐな目で俺を見るな。さっきの、さっきみたいな醜い顔を見せろよ。 「……天国」 「うるさい!」 自分でも、びっくりした。俺の右手がいつの間にかひかりの頬を捉えていた。固く握ったグーが、ひかりの顔に。ひかりの体が倒れる。…俺の、手は、接着剤でくっついたみたいに、グーを解かない。 「…天国……」 頬を押さえるひかりの目は、揺れていた。信じられないものを見たみたいな顔してた、俺だって、俺だって信じられない。まさか、そんな、俺が、人に手を上げてしまうなんて、そんなこと、 「ちょ、おい、天国!」 ひかりの声を背に、俺はその場から"逃げた"。 [ back to top ] |