誰かの為の協奏曲 | ナノ
ヘヴンとしての仕事を終え、組織のビルに戻ってくる。衣食住を全て提供してくれるもんだから、まぁ、ここが家、みたいなもんだ。あくまで、家みたい止まりだけど。

「おかえり、天国」

家と違うことといえば、血の繋がりのない連中がたくさんいることと、その連中は時として…今だけかもしれないけど…俺を不快にさせること。
俺を今こうして迎えてくれた、ひかり。こいつのことが、今はとてつもなく気に食わない。

「……天国?」

「ただいま」

我ながらとてつもなく素っ気なかったけど、悪気はない。ひかりの眉毛がぴくりと動いたのもちゃんと見た。…ムカつく。

「……なんだよ、なんかあんのかよ」

ムカつくから、それをそのままぶつけてやる。そしたら、ひかりは容易く乗ってきた。

「はぁ?」

単純すぎて、面白い。思わず笑ってしまう。それが気に食わなかったようで、ひかりの顔が歪む。あー、酷い顔。

「お前いまサイコーに怖い顔してる。そんなんじゃハトリを泣かせるぜ?」

ますます歪むひかりの顔。あーあ、結構きれいな顔立ちなのに、醜いったらありゃしない。けど、ひかりの表情がすっと抜けた。びっくりするくらい、一瞬で。

「……オレに何の恨みがあるんだよ」

「………は?」

「ハトリのことか?」

ハトリ。俺の力を望まず、いま俺の目の前にいるひかりの手を取った、アイドルの卵。

「…ハトリのことは悪かったよ。…でも、あいつはお前に、いや、周りのみんなに幸せにしてもらうことを望んでなかった。それは流石のお前も分かってるだろ?」

「…………」

「あいつのことはオレに任せてくれ」

やめろ。そんな、そんなまっすぐな目で俺を見るな。さっきの、さっきみたいな醜い顔を見せろよ。

「……天国」

「うるさい!」

自分でも、びっくりした。俺の右手がいつの間にかひかりの頬を捉えていた。固く握ったグーが、ひかりの顔に。ひかりの体が倒れる。…俺の、手は、接着剤でくっついたみたいに、グーを解かない。

「…天国……」

頬を押さえるひかりの目は、揺れていた。信じられないものを見たみたいな顔してた、俺だって、俺だって信じられない。まさか、そんな、俺が、人に手を上げてしまうなんて、そんなこと、

「ちょ、おい、天国!」

ひかりの声を背に、俺はその場から"逃げた"。








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