「匠」 ぐるぐる回る思考が強制シャットダウンされる。今しがた俺の頭にグーパンした奴…香衣は、いつも通りのニヤニヤ顔で俺を見ていた。ムカつく。 「怖い顔して、どうしたの?らしくないよ」 「……俺らしいって、何さ」 ムカついたから、噛みついてみた。けど、香衣は相変わらずニヤニヤしている。 「ハトリちゃん良かったね、オーディション受かったみたい。もう一人の合格者の女の子と鐘撞さんとで、ユニット名とユニットの方針を検討中らしいよ」 ハトリ。その名が出てきて、胸の奥が苦しくなった。…今の俺、香衣にばれただろうか。…いや、ばれてない。 「で。匠はなんでそんな怖い顔してるの?」 スルーされたと思ったのに、掘り返してきやがった。 「ハトリちゃんのことか」 …こいつ。 「そういえばハトリちゃん、最近明るくなったねぇ。なんでだろうねぇ」 …ばれてるのか。いや、分からない。けど、まるで煽られてるみたいで、胸糞悪い。こいつのにやけ顔を今すぐ殴りたい。 「今、すっごくいい顔してるよ、匠。とっても人間らしい顔してる」 香衣が俺の顔を覗き込んで、忌々しいほどにっこりと笑う。何、俺の顔?……人間、らしい? 「前の匠、優しい顔してたけど、仏像みたいに人間離れしてたってか、貼っつけられてるみたいで、嫌いだった」 ……ふぅん。 「そんなお前の隣で歌って踊るの、正直、しんどかったんだよね」 ……あぁ、そう。そういえば最近、香衣が枯羽と一緒にいることが多いような気はしてた。ふぅん、そういうこと。 「悩めよ、匠。ボーイズビーアンビシャス、ってね」 そう言って香衣が楽屋を出て行く。…意味が分からない。なんなんだもう、どいつもこいつも。 何が悩めだ。悩みの種を吹っかけてきたのはお前のくせに。悩みたくて悩んでるわけじゃないんだ馬鹿野郎。もう何が何だか分からないんだよ。 「…どうすればいいってんだよ…」 誰か、頼むから教えてくれよ。俺はどうすればいい?どうすればよかった? [ back to top ] |