2 3 4 5 彼女は書き上げたファイルの中身を確認し、溜息を漏らす。 「ユートピアのこととなると、文章が雑になっちゃうし…わたしがわたしじゃないみたいになっちゃう…」 頭を抱える。けれど、後悔はしていない。胸の中で暴れる思いを吐き出すことができたし、そして何より…決心がついた。 「ハトリ!」 母親が部屋に飛び込んでくる。驚いて振り返ると、母親は必死の形相だった。手には電話の子機。 「あなた、何のつもりなの?!」 「…何って、電話の通りよ」 「ふざけないで!」 母親が怒っているのは分かる。けれど、それでは彼女は揺らがない。 「芸能事務所なんてあなた…本家の許可を取らずにそんな勝手なことをするなんて」 「鶴日お兄様の許可はもう取ってるわ」 ハトリは一旦母親から目を逸らし、書き上げたファイルをゴミ箱までドラッグする。そしてもう一度母親に向き直り、立ち上がった。 「わたし、歌う」 [ back to top ] |