荊の華と朽ちた季節 | ナノ

秋の夜長とあなた


屋敷の縁側に立ち、切り揃えられた横髪を微風に遊ばせる。空に浮かぶ丸い満月、いい夜だ、と思った。中庭では芒がさらさらと揺れている。何かひとつ、作品が生まれそうな予感がした。

「薊利さま」

名を呼ばれ、振り返る。そこに立っていたのは、長い美しい黒髪の、少女と言っても過言ではない愛らしい女性だった。妻だった。その腕には赤子が抱かれている。

「咲」

「美桜も眠ってしまいました」

腕の中で眠る娘の寝顔を覗き込みながら、妻である咲は微笑んでただそこに立っていた。娘の存在があるということは、咲の命の刻限が刻まれ始めたということを意味している。そして彼女は、それを受け入れる気でいる。薊利自身、それこそが彼女、季朽咲の運命であり、季朽のしきたりだということは理解していた。
どうせ死ぬなら、何か遺してやってもいいのかもしれない。薊利が指を鳴らすと、乳母が姿を現す。そして乳母は咲から赤子を受け取り、奥の部屋へ消えて行った。

「咲」

「はい」

名を呼べば、咲は縁側に正座して軽く頭を下げる。薊利は中庭に立ち入り、芒を数本手折って咲に差し出した。

「ひとつ、作ってみせよ」

頭を上げた咲は芒を受け取り、しばらく見つめている。やがてふわりと表情を綻ばせ、薊利の方を向いた。

「はい、お師匠さま」