主役だから飲めや食えやと料理を食べさせられ、流沙の胃袋は限界に近い。こうして盛大に祝ってもらうのは初めてで嬉しいのだが、やはり限度というものがある。 「ふふ」 ベッドに突っ伏す流沙の傍らから、鈴の音のような笑い声がした。重い体を起こし、そちらの方に首を巡らせる。赤いワンピースを着た薔薇戦争が、少し離れたところにある椅子に座っていた。 「…腹いっぱいだよ、薔薇…」 「みんな張り切って作りすぎたのね。ふふ、けど全部食べてくれたじゃない、よく頑張りました」 腹をさする流沙を見つめ、目尻を細める薔薇戦争。他のメンバーは食堂の後片付けをしているが、薔薇戦争は周りに「流沙と一緒にいてあげろ」と言われて今ここにいる。流沙にとっては申し訳ない反面、嬉しくもあった。今は彼女を一人占めしているということなのだから。 「薔薇」 ベッドの縁に腰掛け、薔薇戦争を呼ぶ。血のように赤い瞳が水のように青い瞳と交錯した。 「おいで」 薔薇戦争はうっすらと笑みをたたえ、流沙の隣に腰掛ける。それに対して流沙は彼女の腕を掴み、自らの膝を示した。やれやれといった風な息を漏らし、薔薇戦争は彼の膝の上に乗る。 「重いでしょ?」 「んーん、全然」 薔薇戦争の手を取り、頬に添えさせる。彼の頬が僅かに上気しているのを感じた。薔薇戦争の表情が綻ぶ。 「流沙」 手を離し、流沙の首に腕を回す。 「わたくしの目を奪ってくれてありがとう」 その言葉に、流沙は喉が干上がるのを感じた。薔薇戦争の目。それは流沙にとってトラウマ以外の何物でもない。それを察し、薔薇戦争の腕に力がこもる。 「ごめんね、そういう意味じゃないの。あなたが目を奪ってくれたから…今のわたくしはあなたを愛せている気がするの」 体を離し、彼女の隻眼が流沙の揺らぐ眼を見つめる。 「あの事故があって、喧嘩して……喧嘩してる期間があったから、わたくしはあなたとただの他人になり切れないんだわ」 流沙の目に涙が溜まる。その涙を拭い、薔薇戦争は微笑んだ。 「この生き残った右目は、あなたしか見えないの」 流沙を移す赤い目に宿るまっすぐな光に、彼は薔薇戦争の体を折れそうなほど抱き締めた。「ちょっと、苦しいわよ」と苦笑する薔薇戦争。流沙は彼女の胸に顔を埋め、子供のように泣きじゃくった。 「薔薇、ばらぁ…っ…俺、もうお前じゃなきゃやだ…」 「ふふ、知ってる」 「…お前じゃないと、駄目だ…」 「分かってるわ」 顔を上げた流沙は、勢いのまま薔薇戦争に口付ける。絡み合い、溶けるような熱い口付けに、薔薇戦争の顔にも熱が集まる。 「…は…かわいい…」 「…うるさい…」 口答えしながらも、その濡れた口元に浮かぶのは微笑。流沙も泣き笑いのような、それでいて幸せそうな笑みを零す。 「好きだよ、薔子」 「……わたくしも、好きよ、流人」 もう一度口付けを交わしながら、薔薇戦争は流沙の方に全体重を掛け、彼に身を任せた。 Title by 確かに恋だった [ back to top ] |