ポケットから小銭を取り出し、赤いラベルのペットボトルの紅茶を購入。そして隣の椅子に腰を下ろし、紅茶を煽った。 「……わたくしは何をこんなに動揺しているのかしら」 糖分を摂取したことにより、少し頭が冴えてきたようだ。先程までの自分の行動を振り返れば、重い溜息が漏れる。 「第一、わたくしがあの野郎の心配なんておかしな話よ、あれはあいつの自業自得だわ、わたくしは悪くないわ、わたくしは……」 つらつらと独り言をぼやいていると、言葉に詰まった。…彼は何も悪くない。寧ろ、彼のパートナーであり護衛も兼ねていた自分の責任で、やはり彼に非があるとは思えない。 「………わたくしの、所為……」 「そう。貴様の所為」 「…やっぱりわたくしの……ってわぁっ?!」 突然頭上から降ってきた声。気配もなく突然現れたそれに、薔薇戦争は奇声を発する。 顔を上げれば、般若の面で顔の右を覆った人物がいた。着物だが、ジパングの一般的なものとはデザインが違う。ゆったりとして楽そうな着物だった。 中性的で一目で性別は分からないが、彼女と呼ぶのが正しい。彼女は《じゅげむ》。その黒い瞳は薔薇戦争を見てはいるが、映してはいない。肩の上で切り揃えられた濃紺の髪を揺らしながら、彼女は薔薇戦争の隣に腰を下ろした。 「……ボスから聞いたの?今回の任務の失敗」 「聞いた。流沙が意識不明。原因は貴様のミス」 耳に心地良い中音の無機質な声の調子で言われると、かえって胸に刺さる。自分は悪くないと言いたいわけではない。しかし、自分に非があったのを素直に認めたくなかった。今まで完璧な人生をこなしてきたのだから。この国の貴族の一端、荊華院の女として。 「貴様は反省をしているか」 「……え」 「ずっといがみ合っていた貴様達だが、今回は完全に貴様の非だ。それを貴様は反省しているのか」 「…………」 してないわけないじゃない、そう返そうとすれば、何故か溢れてくるのは涙だった。 …自分の所為だ。自分の所為で流沙が傷ついた。このまま彼が目を覚まさなければどうしよう。そんな不安が渦巻き始める。 「…反省は、しているのか」 じゅげむの言葉に、口元を手で押さえながらやっとの思いで頷く薔薇戦争。 それを確認したじゅげむは薔薇戦争から視線を外し、虚空を眺めて口を開く。 「貴様達は、今年でいくつだ」 「……じゅう…はち……」 「貴様と流沙はほぼ同時期に組織に来たな。いつだったか」 「…たしか……十六の時、だわ……」 改めて確認すれば、随分と浅い付き合いだと思う。しかし、この二年間、ずっと近くにいた。当たり前のように寝食を共にし、罵声を浴びせ合う。 出会った頃はまだ幼かったのだ。そしてそのまま二年の時を経て、大人になってしまったのだ。だからずっと、事あるごとに喧嘩三昧。 「自分に素直になれ、薔薇戦争」 ぽん、と頭に重みを感じる。涙を拭い、顔を上げたが、もうそこにじゅげむの姿はなかった。 [ back to top ] |