「お迎えご苦労さまです」 その時、視界が急に白に染まった。青葉の目の前、そこには純白がいた。髪も衣服も瞳孔すらも全てが純白。純白は青葉の顔を覗き込み、にこりと笑ってふわりと後ろに跳ねる。 「新たな同胞が来ましたよ、天子さま!」 純白はそのまま後ろに下がり、やがては背を向け駆ける。純白を追う視線が捉えたのは、玉座のような荘厳な椅子。そこに座する、青年。 「え」 青葉の視界を映像として見ていた一同の中で、斎の口から、音が漏れた。映像の中で、純白は玉座の肘置きの部分に腰掛け、青年の顔に手を伸ばす。純白の腕に抱かれる青年は、茶色い髪に、金色の目。 「天子さま」 純白は天子と呼ばれた青年の口元に耳を寄せる。青年の唇が僅かに動くのが見えた。そして純白は顔を上げ、輝くような笑顔を見せる。 「歓迎するよ、ですって!」 天子は笑う。その笑顔はとても歪で、皮肉のような憐憫のような、とにかくあらゆるマイナスの感情を織り交ぜたような、見る者の背筋を凍らせるよう。それでも、その顔を、映像を見る者は、彼女は、知っていた。 「なんでたっくんがいるんだよ!」 彼女の幼馴染であり、組織のメンバーであった天国の島。たっくん、と斎の悲鳴を聞いたひかりは、思い出す。先程斎に見せられた写真の男。名前は思い出せなくても、確かに仲間だったことは覚えている。それなのに。 「あっ、ちょっと待っててくださいね同志」 その時、純白がひとつ声を上げる。 「お届け物が来たようです」 扉が開くような軋んだ音がした。青葉の視界が、映像が動く。今しがた青葉が歩いてきた闇の向こうに、影が見えた。 「ただいま戻りましたァ天子さまァ」 闇の中から浮かび上がる金色が、間延びして掠れた声を発する。その隣に、遅れてもうひとつの影。 「郎女、捕まえてきましたヨォ」 その影を、そこにいる誰もが知っていた。 「…赤鯉と紫梟、只今戻りました」 雨の匂いをまとう彼。そして、彼が腕に抱く少女の姿を、知らない者などここにはいない。 「ハトリ!」 ひかりの声が部屋中に響き渡る。まさかの登場人物に青葉も動揺したのだろう、視界がやや大げさに揺れた。眼鏡の位置を正す振りをして誤魔化したのかもしれない。 「天子さま、お待ちかねの郎女ですよ!さぁ紫梟、早く天子さまに郎女の姿をお見せになって!」 シズク、とひかりが苦悶の声を漏らす。勿論、本人に届くはずはない。あくまで画面の向こうの出来事なのだから。 彼は天子の方まで歩み寄り、腕に抱く少女の体を彼に預ける。何も映さない天子の虚ろな目が揺れ、少女の体を見下ろす。そして、彼の口角がいやに吊り上がった。 「申し訳ありません、天子」 そこで響いた、低い、それでいて芯のある声。天子の顔から笑みが消える。 「あなたは僕の神さまではなかったみたいです」 彼が天子に、錆びたナイフを突きつけていた。 [ back to top ] |