novel | ナノ
学校を終え、組織のビルに帰ってきた斎は急いで自室に戻り、テレビをつける。今日の音楽番組にはユートピアが出演するのだ。録画はしておいたが、リアルタイムで見るに越したことはない。

「間に合った!」

ちょうど、アナウンサーが曲紹介をしているところだった。意気揚々とクッションを抱え、テレビにかじりつく。そして、イントロが流れ……斎はそこで違和感に気付く。

「……たっくん?」

彼女の幼馴染がいない。三人組のはずのユートピアなのに、画面に映るのは二人だけ。体調不良で降板しているのだろうか、慌てて携帯電話を取り出し、芸能ニュースをチェックする。しかし、それらしい情報は何もない。

「…たっくん」

部屋を飛び出し、階段を降りて2フロア下の彼の部屋を目指す。辿り着いた部屋の扉をノックするが、もちろん返事はない。鍵はかかっている。夜闇に合鍵をもらいに行こうとした時、彼の部屋の隣の扉から流沙が出てきた。

「流沙!」

「ん、あぁ、斎。どした?」

「たっくん知らない?」

たっくん、と流沙が言葉を反芻する。あぁ、たっくんと呼ぶのは自分だけだ、すぐに分かってもらえないのも無理はない。

「天国だよ。天国知らない?」

通称で言い直す。しかし、それでも流沙の表情は晴れない。そして、信じられない答えが返ってきた。

「天国って……誰だっけ」

流沙の言葉に、斎の表情が凍りつく。

「誰って……天国の島だよ。俺の幼馴染で、あんたの部屋のお隣さんじゃんか」

「え…俺のお隣って、確か空き部屋だったと思うんだけど…」

……そんな馬鹿な。

「ちょ、斎!」

慌てたような流沙の声を背に、斎は駆け出す。どこだ、どこに行った、天国、天国は。
すれ違う組織のメンバー一人一人に尋ねてみる。しかし、誰も彼の居所を知らない。それどころか、皆口を揃えて言う。

「天国の島って、誰?」

メンバー全員を回っても、誰一人として天国を認知していない。何故、何故だ。彼は、彼はどこに。

「たっくん………!」

その日。組織から"天国の島"が、世間から"ヘヴン"が消えた。







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