橙の目を輝かせながら、和舞は頭からバスタオルを被っていた。対する希望は何とも言えない表情で、傍らに立つ風紋を見る。 「……ボス」 「なんだい、希望」 「なんで俺呼ばれたんですか?」 「エアイエが希望と話したいんだって」 「おまんとしゃべくーがおもっせんだけん!」 「何言ってるかわかりません」 希望の一蹴。しかし和舞は、和舞の中にいるエアイエは笑みを絶やさない。エアイエはバスタオル越しに神を拭きながら口を開いた。 「お前と話すのが楽しいのだ!お前となら標準語で話すのも厭わない!あとお前は頭が切れる!大変気に入ってるよ!」 「神さまに気に入られても、俺まだあなたのこと信じてませんし。それに、カミトられた和舞越しでないとあなたと話せないんですけど」 「頑なだな、気に入った!」 「いや聞けよ」 「エア、そろそろ本題に入ろ」 エアイエの目がディープピンクになり、「あだん」とまた橙になる。この現象も随分見慣れたが、色の所為だろうか、少し目がちかちかする。 「取り敢えず、妾と和舞が襲われた。しかも妾が視えていて、妾を狙うようなそぶりも見せおった」 「持ち物はナイフで、錆びてた。たぶん、昨日ハトリちゃんを襲った奴と同一人物だと思うんだけど、どうだろう」 目の色の変化に希望の空色は疲れたのだろう、彼は目頭を押さえて少しだけ俯く。そのままの体勢で、和舞を見ることなく思ったことを率直に述べていく。 「和舞の言う通り、鶴科ハトリを襲った者と同じでしょう。しかし、あなたとエアイエと彼女の共通点は何でしょうね。何故あなた方が狙われたのか」 「それが分からんのだなぁ」 エアイエは椅子の背もたれに体重を預け、ううんと伸びをする。ぎし、と椅子が軋む。希望は眉間から手を離し、ゆっくりと顔を上げる。そしてその視線はエアイエではなく風紋へと。 「他の者はどうしてるんですか?ボス」 「そうだね、その話をしよう」 風紋は一歩前に出て、机に手をつく。 「まずはキヨと萌々香が鶴科ハトリの容態を診ている。ひかりは寝ずに彼女についている。…実動としては、まぁ正直今の段階では情報を集めるしかなくてね。そちらには流沙とサラバンド、さくら、……そして珍しいことに、薔薇戦争が出ているんだよね。犯人探しに一番燃えているのは恐らく彼女だ」 「……成る程」 今回の襲撃は、新たな手掛かりと成り得るのか。希望は顎に手を当て、思案する。無言の部屋の中、窓を叩く雨音だけが響く。 「…………………雨」 沈黙を破ったのは、和舞の声だった。彼の方を見れば、彼は窓の外へと視線を移していた。その目の色は、ぶれている。テレビの砂嵐のように、橙と桃色が入り乱れ混じって、見ている側をざわつかせるような、そんな色。 「……そげ、雨」 「…雨が、どうかしましたか」 目の色が橙に固定される。しかし、その視線は揺れていた。窓に伝う雨の筋を見つめる彼女の口は、震えていた。 「雨だがや。エオがおる、奴が襲ってくる直前に、エオの気配がしたんだがん!」 びくりと大きく和舞の体が痙攣する。はぁぁぁあ、と重い大きな溜息を漏らした和舞の目の色は、ディープピンク。エアイエの気配は皆無だった。和舞は首を鳴らしながら、気怠げに虚空を見つめる。 「出雲郷に帰ったみたい」 「…アダカエ?」 「出雲の郷って書いてアダカエ。神々の世界だよ。……ちなみに、エオってのはエオルア。エアイエの弟で、今は東北の方の地神になってるはずなんだけど……エアイエ曰く、帰ってきた、みたいな?」 成る程、一目散に和舞の体から飛び出して行った最高神には、どうやらブラコンの気があるらしい。 「……なぁボス。おれもちょっと気になることあるから、調べてみるわ」 神さまにも随分と愛嬌があるらしい、希望が感心している傍ら、和舞はどこか腑に落ちないといった様子で眉をひそめていた。 [ back to top ] |