novel | ナノ
もしもし、李希?…はい。
いきなりごめんなさい、今、大丈夫ですか?…あー、今、というか、これから少し……えぇ、少し長丁場になりそうで。
…え?時間空けてくれる?
流石は我が妹、助かります。…ふふ、照れなくてもいいんですよ。
…………、そう、ですかね。
…もう、李希ったら。
……君は、少し意地悪になりましたね。
…女の子は、難しいです。
……ねぇ、李希。
女の子って、よく分からないんですよね。
…いじめたくなるんですか?俺を。
ごめんなさい、変なこと言いましたね。忘れてください。
……はい、まぁ。
…女の子というのは…?
…守られたい?
……守られたいけど、守りたい…
さっきからたぶんが多いですよ。
……難しい生き物なんですね、女の子って。
もう、君、本当に意地悪になりましたね。
はい、一本取られました。
……はい、一応。
相方が、相手の女の子の非を認めたがらなくて。本当にその女の子の仕業なのかって疑ってかかってるものですから。
でも、やはり渦中にいるのはその女の子なわけですし。
…んー…まぁ、最初はそんなつもりなかったんですけどね。
まだ完全に分かったわけではありませんけどね。
……君って奴は、またそんなこと言うでしょう…
………
はい?
……勿論ですよ。
…助けるのは、俺じゃないかもしれないですけど。
はい、約束します。
…はい。お願いします。頑張りましょう。



もしもし。…あ、兄さん?
…今?
…あぁ、お仕事ですか。大丈夫ですよ、時間空けます。勿論ですよ。
…ふふふ、兄さんに褒められると、なんだかむず痒いですね。
……本当に、兄さん、優しくなりました。
俺……私は、兄さんのことはずっと好きでしたけれど、今の兄さんが一番好きです。…照れなくてもいいんですよ。
ふふ。そうですか?
…そう、なのでしょうかね。

はい?…え?……は?
……いえ、大丈夫ですけど。
…女の子が分からない、ですか?
……女の子、というのは…
…守られたい、生き物なんですよ、たぶん。
守られたいくせに、誰かを守りたい生き物なんですよね、たぶん。守る力があるかどうかはさておき。
守られたいのに守りたい。だから、いざ守られると、人によっては怒ったりしちゃうかも。素直じゃないんですよ。たぶん。
…だって、確信ないんですもの。一般論ってわけでもありませんし。
男が単純すぎるだけだと思いますよ。
ふふふ、兄さんから一本取りましたね。
……女の子、なんですか?次の相手。
…いちおうって、なぁにそれ。
へぇ……
それで女の子って難しいって言ったんだ、兄さん。
まぁ、結果として、女の子がどんなものか、多少は分かったでしょう?
少し謎が残ってる方が神秘的でしょう?
ふふふ。
……ねぇ、兄さん。
その子のこと。…助けてあげてくださいね。
約束ですよ。
…ありがとう、兄さん。
じゃあ、電話はこのまま繋いでおきますから。頑張りましょうね。
それじゃ。



「李希ちゃんに余計なこと言いすぎ」

「ごめんなさいね」

電話を繋いでくる、と言ってからかなりの時間が経ち、痺れを切らしたひかりが希望に喝を入れる。しかし希望は悪びれる様子もなく、耳に携帯電話を宛がったまま笑った。

「…まぁいいけど」

二人がいるのは、とある神社。黒い鳥居が5本立ち並び、石造りの階段の奥には鳥居と同じく黒い本殿が見える。そして、その本殿の前には、人影。茶色い髪。白いワンピースにピンクのカーディガン。紛れもない、鶴科ハトリがそこに立っていた。
組織のデータベースから取り出した情報によれば、鶴科ハトリはアイドルの卵として芸能活動を開始したばかりらしい。そこで、ユートピアのカエからマネージャーの鐘撞を経由し、鶴科ハトリと連絡を取ることができた。
「少しお話を伺いたいのですが」と尋ねれば、彼女は消え入りそうな小さな声でこの神社を指定した。

「……そっち行くから、待ってて」

ひかりが声を張り上げれば、彼女が肩を揺らすのが見えた。彼女が己を抱き締めるように両腕を掴んだのを見て、二人は、石造りの階段を上り始める。

階段を上り終え、本殿が目の前に現れる。本殿にはところどころ、装飾が剥がれ落ちたような痕が見える。
そして、鶴科ハトリは、そこにいた。






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