「……なぁ」 「なんですか」 「本当に行くのかよ」 最高神エアイエからもたらされた歴史的事実により、二人に下された新たな使命。『鶴科ハトリを拘束せよ』。 ひかりの問いに希望は眉をひそめ、彼の方に視線をやる。ひかりが資料をどかせることはない。 「……どうしてそんなことを訊くのです」 「……だって、」 資料越しのくぐもった声は、少しだけ揺れていた。希望が僅かに、ほんの僅かに目を瞠る。ひかりは続ける。 「…だってさ、オレらの最初の任務って、行方不明の天国の情報収集だろ?中身が丸っきり変わっちまってるじゃねぇか」 「…それは、そうですけどね」 希望の言葉も、どこか歯切れが悪い。しかし、ひかりはそれ以上もう何も言わなかった。はぁ、と息を吐き、希望はひかりから目を逸らす。 「……ハッキリ言ったらどうです?鶴科ハトリを捕まえたくないって」 独り言のように呟かれたが、ひかりは聞き逃さなかった。びくりとひかりの体が跳ねたのを見て、希望は面食らったような表情を浮かべる。そんなに反応するものだろうか…と思ったところで…希望はにやりと嫌な笑みを浮かべた。 「もしかしてあなた…鶴科ハトリに惚れてました?」 ぶふっ、と資料の下でひかりが噴き出し、資料がずり落ちる。露わになったひかりの顔は……赤い。希望は笑いそうになるのを堪え、落ちたひかりの資料を拾う。手渡してやれば、ぶん取られた。これ以上突っ込むのはやめた方がいいかもしれない。 「…あいつが、オレらを殺せって言うのかなぁって思って」 口を開いたのは、ひかりだった。ひかりは資料をまた顔の上に載せるが、口元だけを隠し、目は虚空を見ている。彼の目線の先を追い、何もないことを確認し、希望はひかりに視線を戻す。 「……恩人だから、そう思うんですか」 「…まぁ、そう。あいつ、オレを助けてくれたんだろ。なんか腑に落ちねぇんだよな、ボスとカミサマの話」 ひかりの目が遠くを見つめるように細められる。希望はソファーの空いたスペースに腰を下ろし、脚を組んで肘をついた。 「…正直、俺もあなたと同意見です。ですが、捕らえるかどうかはさておき、とにかく彼女と会って話さなければならないのは事実でしょう?」 希望の言葉に、ひかりは目を見開く。そして希望の方を見て、勢いよく起き上がった。突然の衝撃に、希望はソファーからずり落ちる。 「…まぁ、お前の言う通りだな」 尻餅をついた痛みに呻く希望の目の前に差し出される手。視線を動かし、指先、手のひらから腕、肩、そして表情を見て、希望は苦笑した。 「とりあえず、鶴科ハトリに会いに行こう。どうするかはその後だ」 ひかりの手を取り、立ち上がる。「勿論ですよ」と笑みを浮かべる希望。互いの目を見て頷き合い、二人はその場を後にした。 [ back to top ] |